紡ぐ糸は虚空へと誘う

第5話 誠司

「魁って、……なんか、年上の人との交流が多いよね」

 三人並んで歩きながら、派手な格好をした女子、サクラが控え目に言う。

 多いってわけじゃ……、と真ん中を歩く魁は言葉を濁す。

 それに誠司は魁達より二つ上程度だ。

「大丈夫なんですかい? もし金をせびるようなら、直ぐあっしに言ってください」

 隣を歩く誠司が耳打ちするように言うが、聞こえてるよ……と言わんばかりにサクラの口がへの字に曲がる。

 サクラを初めて見た魁の知人はほとんど同じ反応なので、もう気にしていない。

 不審な目でサクラを見続けていた誠司だが、魁が信用しているものをとやかく言っても仕方ないと思ったのか話題を変える。

「しかし、ちょっと安心しやした。生徒さんがいるんですね」

 元々は豊橋組の圧力で生徒がいなくなったのだ。

 壬生家、つまり鏑古流を義兄弟としてからは全く逆の行動、斡旋などをしてきたが、桃子はその全てを断ってきた。

 誠司はその事を気に病み、力になれないかと尽力はしてくれているのだが、組を離れて一個人でできる事などたかが知れていた。

「でもあの子飽きっぽいからねー。いつまで続くんだか」

 サクラが腕を頭の後ろで組んで言う。

「いや、でも母上は筋がいいと言ってました。技術は年相応ですが、他の子にはない思いやりがあると」

 ふーん、とサクラは興味無さそうに応えるが、誠司がふとしたように言う。

「でも筋がよくて一人しかいない生徒なら、いずれは鏑古流を継ぐって事ですよね? その場合、内弟子、つまり嫁入りって事じゃないんですか?」

 サクラはハッとする。

「ななななな、何言ってんですか。それはないって本人が言ってたし」

「いやいや、敵の寝首を掻く時に、前もって相手に教える事はありやせんよ。あの子、別に坊ちゃんの事嫌ってはいないでしょう。将を狩るにはまず馬からって言いますしね」

 顎に手を当て、一人で納得している誠司に、魁はそんなバカな、と苦笑いするが、サクラの挙動は目に見えておかしくなった。

「だだだだって優美には真一が……、でも気持ち聞いた事ないし……、幼馴染ってだけよね。確かにそうかも……」

 一人ぶつぶつ言いながら青ざめていくサクラに、誠司は更に畳みかける。

「坊ちゃんの気持ちはどうなんです? どっちが好きなんで?」

 露骨に「本人がいる前でそんな事聞くか!?」という顔をするサクラだが、魁の返答を聞かずにはいられないようだ。

「いや、どちらも大切な友達ですよ」

 サクラの顔が引きつるが、「そりゃ、この場面ではそう答えるか」と半ば諦めたように肩を落とす。

 誠司はその様子を面白そうに見ていたが、僅かながらサクラに対する不信感はなくなっているようだった。

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