第32話 陽炎のように

「なんだよあの野郎。 鍵開けとけって言っといたのによ」

 男が二人、地下らしき通路のドアをガチャガチャと揺する。

「どうするよ。時間に遅れたらマホメド様にドヤされるぞ」

 二人は顔を見合わせて頷く。

 一人の腕がメキッと膨らみ、ドアノブを変形させて引っこ抜いた。

「ドアが壊れたのはアイツのせいだ」

 そのままドアを蹴破り、取りに来た荷物――檻を探す。

 檻はいくつかあったが一番手前にあるはずだ……と中身を確認して声を上げた。

「なんだお前!? 何やってんだ?」

 檻にいたのはやや乱れた髪に白衣を来た長身の男。

 それがさるぐつわのような物をされて、後ろ手に縛られたような状態で転がされていた。

「おい! 女の変異種はどうした? どこだ?」

 男は呼びかけるもモゴモゴとした返事しか返らないので机から鍵を探す。

 ガチャガチャと鍵を外して檻を開け、さるぐつわを取ろうと手を伸ばすと、青年の像が陽炎のように揺らいだ。

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