第27話 香緒莉side 三度目のレイプ
昨日の夕方から何十回も連絡しましたが、漣が応答する事はありませんでした。
『まさか事故にでも遭った?』
と不吉な事を、つい考えてしまう自分が居ました。
不安な気持ちで漣を待ちながら、私はつい眠ってしまった様でした。
そして、玄関が開く音で目を覚ましました。
漣が帰って来た様です。
私の目の前の食事はそのままになっていました。
時計を見ると朝6時でした。
私の前に戻って来た漣の顔を見たら、つい涙が出てしまいました。
漣は仕事が大詰めで連絡そびれたと言っていました。
スマホの電源が落ちていたのも気が付かなかった事も伝えられました。
それから漣は、シャワーを浴びると言って浴室へ向かいました。
私は替えの下着と部屋着とバスタオルを持って脱衣所へ行き、漣が脱ぎ捨てた服を洗濯籠に入れてズボンだけ持ってくると、ポケットにスマホが入っていたので、それを取り出すと、一緒にレシートが出て来ました。
私は、漣が会社の近くで食事したのだと思いましたが、合計金額が、食事にしては高いのでその明細を見てしまいました。
――あっ、お酒飲んでる――
レシートには漣がよく飲むビールと一緒に、絶対飲まないカクテルが印字されていました。
それに一人にしては料理が多すぎる印字もあり、スマホを見るとその電池は満充電になっていました。
「……………………」
「…………これって、なに」
「…………うわき?」
そう考えただけで、自然と涙が頬を伝うのがわかりました。
漣がシャワーから出て来たので、優しく聞いてみようと思いましたが、不思議に私の口から出た言葉は、断定的に問い詰める様な、まるで鬼になっていました。
漣は説明しようとしましたが、
その話が仕事の事から始まったので、言い訳の準備と解釈した私は、後先考えないで家を飛び出していました。
気が付いたら、お姉さんの家のインターホンを押していました。
家にはお姉さんしか居なかったのも幸運でした。
私はお姉さんに抱き着き、涙が枯れるまで泣きつきました。
それをいつまでも受け入れてくれたお姉さんは、やはり漣と同じでした。
姉弟の血は争えないとも思いました。
涙が収まると、
「香緒莉ちゃん、どうしたの!漣と喧嘩でもしたの?」
と優しく聞かれました。
私は中々言い出せずにいましたがお姉さんは、
「朝ご飯食べた?」と話をずらしてくれました。
私が首を横に振ると、温かい朝食を用意してくれて、それ以上は聞こうとはしませんでした。
そして「気のすむまで居ていいよ」と言ってくれました。
お兄さんと陽菜ちゃん花奈ちゃんの三人は、朝早く近くの山へ登山と言うよりもトラッキングに行ったそうです。
お腹がふくれたら自然に言葉が出て来ました。
「漣、浮気したみたいです」
と言って、私が疑った経緯を話す事が出来ました。
「うーん、あなたたち凄く愛し合っていたのに?」
「いいわ、私確かめてくるからゆっくりしていて」
「それと、この話は、うちの家族には黙っていてね」
「話してもいい時が来たら私から話すからね、まっ、そんな時は来ないと思うけどね」
そんな話をしているうちに、時間は過ぎて三人が帰って来ました。
最初三人は私だけが居る事に少し驚いていましたが、
「漣、出張長引いているんだって」
「それで香緒莉ちゃん、寂しいと思って家に呼んだの」
と言ってお姉さんが何とかしてくれました。
そしてお姉さんは買い物に行くと言って、買ったばかりの自分専用の軽自動車で出かけて行きました。
それでも、陽菜ちゃんと花奈ちゃんは私の存在に大喜びでした。
暫く、陽菜ちゃんの部屋で三人で遊んだり、勉強を見てあげたりしていました。
暫くしてから、お姉さんが帰って来ました。
そしてその夜に漣の行動の一部始終を聞かされました。
私は、漣が浮気をしたのではない事は、頭ではわかりましたが、気持ちはスッキリしませんでした。
お姉さんは、
「気持ちが落ち着くまでここに居なさい」と言ってくれました。
二人に勉強を教えると言う事で、漣が出張から返って来るまでもう少しここに居る事に成りました。
それから三日が経ち私の気持ちも落ち着き、『やっぱりもう帰ろう』と思い水曜日の朝、
「お姉さん、明日漣が帰って来るので私も明日帰ります」
と言って大学へ講義を受けに出ました。
その日は夕方近くにも受ける講義が有り、お姉さんの家に向かうのが少し遅れました。
そして、
地下鉄駅への近道で、飲み屋街の近くを通った時、私は知らない男に襲われました。
その男は小柄な私を簡単に路地裏へと連れ込み、真夏の為薄着をしていた無防備な体をいとも簡単に裸同然にするのはあっという間でした。
私は、悲鳴を上げて抵抗しました。
口を押えられ、下着を外されて、望まない指が私の秘部を攻めて来ました。
その時、男が発した言葉が、今でもわたしを苦しめています。
私は男の指を思いきり噛み、手が口から離れた時、大きな声で助けを呼ぶ事が出来ました。
すると、事件に気が付いてくれた通行人が、助けてくれました。
助けてくれたのは、漣でした。
漣だと判った時、私は漣に抱き着いて泣いていました。
そしてふたりで家に帰りました。
歩いている時、私と漣の間に会話はありませんでした。
懐かしい家のはずなのに私の心の中は、そこに嬉しさは無く、惨めな思いが湧き出て自分の部屋に引きこもり、心配してくれる漣の言葉にも反応できませんでした。
そしてしばらくしたら、お姉さんが来てくれました。
私は又お姉さんの懐で泣き、私が苦しんでいるのを打ち明けると、お姉さんは私を連れて、お姉さんの家に戻りました。
暫くして、
今日はお盆の為、お姉さん家族が胆振東部にある漣とお姉さんの実家に行く日です。
私も誘われましたが、体調が悪いと言って遠慮しました。
きっと、漣も今日行く筈です。
私はお姉さんの家の鍵を預かり、この家にもう少し一人でいる事にしました。
凄く不自然でしたが、お姉さんが旨く言ってくれて陽菜ちゃん達は何とか納得してくれました。
そして、大きな家でなにもすることも無く、一人でぼーっとしていました。
何気なくつけていたテレビのニュースでは、私と漣の家の近辺で起こっていた連続婦女暴行魔が逮捕された事が報道されていました。
そんな時、来客のチャイムが鳴りました。
モニターに映っていたのは、
何故か、
樹所貴美さんでした。
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