第10話 ラブホにて

 土曜の昼下がり、依然として外は真夏日である。


 今居るのは、通い馴れたラブホの一室、

 メンバーズカードも有る。


 ルミ、いや奥村美彩みどりと二人きりで居る。

 香緒莉の同居人の従姉だ。

 部屋に着くなり美彩は、湯を張りに浴室へと向かった。

 場慣れしているのがよく分かる。ある意味達者である。


 ――さすがヤリマン女子大生――


 その間俺はソファーに座って、テーブルの上に約束の数の諭吉の肖像を置いた。


 浴室から美彩が戻って着た。

「サスケさん、大きくて綺麗なお風呂だよ」

「一緒に入る?」


 いつもの俺なら、いや香緒莉と会う前ならと言った方がいい。


 相手の気持ちにもよるけど、二人で湯船の中のスキンシップで高め、そのままベッドに欲情を移行して愛の無い快楽行為をする。

 そんなパターンが多かった。


 しかし今日はH無しと決めてSEXの舞台になる施設にいる。



「君、奥村美彩さんだよね?」


 私の問に、

「えぇー!…………何で!」


 知っているの!と言うのか。




 * * * * * 




 昨夜、香緒莉が俺の住む部屋に九州から戻って来た。

 そして、泣きながら俺にしがみついてきた。

 とても撥ね付ける状況ではなかった。


 状況に押しきられて仕方なく言った言葉なのか、自分の心から正直に出た言葉なのかは良く分からないけど、

 不覚にも『おかえり』と言ってしまった。


 泣きじゃくる香緒莉を部屋に入れて座らせた。

 涙が枯れてから、暫くの沈黙が続いた。


 まず俺から口を開いた。

「上手くいかなかったのだね?」


「……………………」

「私、お父さんに会えたけど、名乗れなかった」

「お父さん、私を正面から見たけど、気が付いてくれなかった」


 と話し出し、いろんな状況や、タイミング、妹の事等を暫く話したあと最後にお願いされた。


「漣さん、暫く私を此処に置いて貰えませんか?」

「母が引っ越しするまででいいので」

「私、漣さんに迷惑かけない様にしますから」

「私に出来る事は何でもしますから」


 香緒莉の目は必死さを物語っていた。




「………………」

 少し考えた後俺は口を開いた。


「こんな所で良かったら、俺は構わないけど」


「本当ですか!」

 それまで引きひきつっていた香緒莉の顔が急に明るくなった。



「しかし、同居するにあたって、法律的に色々な問題があるよ」

「それを一つ一つ解決しなくてはいけない、難しいけどやってみようか」


「はい!お願いします」


「まず、一番のネックは香緒莉が18歳未満だと言う事」


「あっ、それ大丈夫です。昨日から正真正銘の18歳です」


「あ、昨日誕生日だったの?」


「はい、エッチしても漣さんは逮捕されないよ!」


「その話は今度でいいから」

「その前に、誕生日おめでとう」


「あっ、ありがとうございます」


「でも未成年には変わりないから、捜索願とか出されると俺は逮捕される」

「親の承諾書が要るな」

「それと、学校の問題もある」


「ひとつ届けを出すだけで、すべて解決する方法はあるけど…………」

「そう言う訳にもいかないし」


「その方法って?」


「…………だ」


「…………それって、?」


「だから、まだ無理だ」


「あー、って言った、後ならいいんだ!」

――――――――私はいつでもいいよ



「いや、言葉の綾だ」

「とりあえず香緒莉の母親に会って承諾書を貰ってからだ」

「その前に、証言も必要かも」

「俺に任せてくれ、悪い様にはしないから」


「うん、ありがとう漣さん」

「それと…………今晩一緒に寝てもいいですか?」


「うー、布団を買うまではしょうがないだろ」

「但し眠るだけだからな」


 それから、香緒莉の環境状態と母親の事も少し聞き出してその日は二人同じベッドで眠りに就いた。


 そして何事もなく朝を迎えた。



 まず、朝からアポを取った。

 香緒莉の名前を出すまででもなく上手く喰いついて来た。




 * * * * * 




「驚かしてごめん」

「俺は結城漣と言います」


「美彩さんの従妹の香緒莉の事で聞きたい事があって呼び出してしまったのです」

「約束の分はここに置いたから」



「ふーん、あんた香緒莉の何なのさ?」


 俺は、香緒莉との出会いからの激動と波乱の一週間を、順を追って説明した。

 そして香緒莉とは、まだ関係を持っていないことも付け加えた。


 そして、

「美彩さんのお父さんが香緒莉にしたことは、犯罪レベルだよね」

「それを確かめたいのと、もしその事件の事を持ち出さなきゃならなくなった時、美彩さんの証言が必要になるので協力してもらえないかと?」

「それともう一つ聞きたいのだけど、香緒莉と香緒莉の母親の仲はどんな感じかも知りたい」



「ふーん、あんた、いやユウキさん香緒莉に惚れてるの?」


「いや、まだそう言う訳じゃ」

「一種の救助活動だよ」


を付けたと言う事は発展するんだ?」

「ま、それは置いといて」


「いいよ、私も香緒莉の事は嫌いでないし、協力しちゃおうかな!」


「すまない、よろしく頼む」


「話すの、エッチ終わってからでいい?」


「いや、今日はその予定はなかったので」


「じゃ、このまま何も話さないで帰る?」

「私ねぇ、ここ最近の暑さで、すっかり乾いているんだ。

「お互い協力しあおうよ、せっかく出会ったのだから」


 ――やっぱりヤリマンだ、コイツ――


 また関わりたくない女の出現だ。



 俺は、儀礼的に事を終わらせ、二度目を要求してくる美彩に、

「もう不能だから」と言って、本題に入った。






「あの親父ロリコンなのよ、私の初めてもあの親父だったの」


「えぇー!」


 美彩の話はこうだ。

 美彩の実父は彼女が小学生の時に癌で他界した。

 美彩が中学生になった頃、今の親父が二番目の父親になった。

 一緒に暮らし始めて間もなくその親父によって処女を奪われた。

 その事を泣きながら母に言ったが、母からは『我慢しなさい』の言葉しか返って来なかった。


 その時この親父が母と結婚した理由は、母への愛ではくて、私の体が目的だったと思った。

 母も、生活の事があるから、黙認していたそうだ。

 そして、美彩の身体はロリコン親父によって開発されていったそうだ。


 美彩も、身体と引き換えに大学まではこのロリコン親父から学費をむしり取ってやろうと開き直ったそうだ。

 でも最近は、ロリコンの対象外になった為か、ここ2年位は親父とヤッていないそうだ。


 就職も内定していて、一人暮らしの準備で、普通のバイトの他に、たまにこのサイトを使っているそうだ。


 叔母達の家に引っ越しが決まった時、無理してでも一人暮らしを始めようと思ったが、香緒莉がロリコン親父の餌食になるかもと思い、従妹を守る思いで、暫く同居を決めたそうだ。


 だから、『あのクソ親父の敵になっても味方になる事は絶対無い』と言ってくれた。


 それと香緒莉の母親、比内絵美子は同居前の事はよくわからないが、今は週一位しか家に帰って来なくて、香緒莉の事は全く気にも留めずに自分の好きな様に暮らしているそうだ。


 美彩の母から聞いた話によると、

 今はスナックのをしていて、殆んど店で寝食している様だ。

 客の男の家に泊まる事も少なくないそうだ。


 香緒莉の事は、香緒莉が小さい時から祖父母に任せきりだったので、その延長線上に今もある様だ。


「これぐらいかな、私が知っている事」



 俺は香緒莉の境遇が不愍ふびんすぎて、言葉を失った。




 すると美彩は、

「ねぇもういいでしょう」



 話を聞いたあと、自分の心を何かをぶつけたい衝動を、


 美彩の『ねぇもう一回しよ』の言葉に負けて、


 さっきより激しい美彩との肉弾戦をしてしまった。

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