第20話 プロポーズ前なら浮気じゃない?

 故郷の北海道の山から初雪の便りが届く頃、此処杜の都でも街の木々が色づいて、ライトアップ等をされると見事なコントラストが見られる季節が訪れていた。


 そんな出かけてみたくなる衝動もふたりで抑え、香緒莉は勉強三昧の日々が続いていた。


 受験が決まった日から、それまで続いていたフリータイムが無くなり、香緒莉の勉強タイムと俺のタイムに入る。


 香緒莉がいつもの様に夕食後の洗い物を俺に任せて、勉強モードへ戻ろうとしていた時、俺は質問した。


「香緒莉、正月に又帰省するけど、その頃は受験の正念場だから香緒莉は留守番だよね?」


「いいえ、私も一緒に行きます。勤めですから」


 ――何の勤めなんだ――


「分かった、それじゃチケット二人分予約しておくよ」

 

「ありがとう漣、みんなに又会えるのが凄く楽しみ」

 と勉強モードの顔がニッコニコ顔に一時変身する。


 そして帰省が二泊三日になるように航空券を手配した。



 ◆



 更に時は過ぎ美しかったイチョウの葉も落ち、街はクリスマスモード一色に成っているある日曜日、香緒莉は全国模試に参加して外出していた。


 今俺が居るのは、とある施設、いや、ラブホだ。そして美彩みどりと一緒だ。


「お久しぶり、けどどうしたの?急に呼び出して」

「香緒莉と上手く行ってないの?」

「時々lineするけどそんな様子でなかったけど?」


「いや、香緒莉とは上手くいっているよ。いや上手くいきすぎて一寸怖い位」

「只、美彩さんに借りを返そうかと思って」


「あー、あの時のケーキの事?」

「そんなの気にしていたの?私の気持ちだったから気にしなくて良かったのに!」


「でも、あの時香緒莉に凄く喜ばれて、俺も凄く嬉しかったし」

「…………それと」

「香緒莉には言わないでほしいのだけど」

「クリスマスイヴに香緒莉にプロポーズしようと思っている」

「だから、プロポーズした後に借りを返すと浮気になるから」


「あぁー、そうなんだ。香緒莉、また泣いて喜ぶよ。良かった」

「それで、漣さんのお返しってえっちする事なの?」


「だって引っ越しの時、美彩さん言ったでしょ!乾いたらって」


「あら、でも私今彼氏いるのね。それじゃ私が浮気になってしまうよ」

「漣さんも、十分浮気だと思うけど」

「まっいいか、お互い黙っていたら分からないもの」



 そして俺は美彩と大人同士の激しい愛のない二回戦を戦った。


 そして俺は、

「これで、貸し借り無しだね」と言って美彩と別れた。


 それを香緒莉に悟られない様に、サウナに寄って美彩の匂いを全部消してから家に帰った。



「漣、ただいま。いい感触だったよ、今日の模試」と言って香緒莉が帰って来た。


「おかえり、良かったね、本番も頑張ってね」


「あー、今日の漣、なんか余所余所よそよそしい」

「浮気でもした?」


 ――どこまで鋭いんだ、この女――


「バカ言ってるんじゃない!俺は香緒莉だけだよ」


 そう言いながら心の中で冷や汗が出た。


 もう絶対浮気はしないと心に誓う自分で有った。

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