第14話 手続き
先週の一週間がひと月にも思えるほどの波乱万丈の週が終わり、今日から新しい一週間が始まる
香緒莉は早起きだ。
それがこれからも続くかどうか分からないが、出会ってから俺の家で迎える起床時間で初日を除いて俺は一番になったことは無い。
今日の香緒莉は昨日までとは違い、胸元の開いたTシャツと角度を間違えればパンツが見えそうなスカートを穿いている。
その上からしているハート柄のエプロンではどちらも隠れていない。
しかも化粧も少し濃い目だ。
そんな格好で朝食の準備している。
どっかの若奥様に見えない事も無い。
俺の脳の起床時間も随分短縮された。
朝食と言っても、一人で居た時と同じいつものトーストとコーヒー、それに加わった香緒莉スペシャルの野菜サラダ、そんなメニューだ。
「漣 今日の私、どぉー」
「か 可愛いけど」
「それだけ」
「いや 凄くかわいい」
「うれしい、これから毎日こんな恰好でいい?」
「いや、普通でいい」
「それだと、み 見えそうだから」
「漣の前だけだよ、こんなの」
「買い出しとか出かける時は、ちゃんと肌出さない服に着替えるよ」
「いや、俺の前でもそうしてくれないか」
「わかったわ、漣がそういうなら時々にするわ」
――どっちの方が時々なんだよ――
朝の身支度を終え、朝食を二人で摂りながら会話する。
「香緒莉、今日の午後、時間ある?」
「今夏休みだから、私はいつでも暇です」
「部屋の片づけはするけど」
「じゃ、昼から市役所と学校へ手続きに行くよ。昼過ぎに迎えに来るから」
「あっ、それと今週の金曜日から5日間お盆休みだけど、どっか行く?」
「わー、お邪魔でなければ連れて行って下さい」
――又口が滑ってしまった、どうしよう!――
「う~ん、田舎に墓参りには行こうと思っていたけど考えて置くよ。帰ってから相談しよう」
後先考えないで口に出す癖を直さなくちゃと思いながら出社した。
会社に着くなり、課長に今日の午後の有給休暇を申請していると、後ろから横槍が入った。又こいつだ、樹所貴美 KK先輩だ。
「週が始まったばかりなのに、結城くん又デート」
「そんな事ある訳ないじゃないですか先輩」
「あら一昨日の土曜日に結城くんの車と信号待ちで並んだ時、助手席に誰か乗っていたと思ったけど見間違いだったかしら?」
あっ、美彩が乗っていた時だ!見られていた!
――うー、この女只物じゃない――
「見間違いです、っうか人違いじゃないですか」
「まあいいわ、そういう事にしときましょ」
KK先輩に疑念を持たれたまま昼で退社した。
家に戻ると、丼のご飯の上に、焼いた肉と野菜と卵が掛けてあるいかにも簡単そうな昼食が用意してあった。
初心者の料理にしてはかなり旨い。
ふたりで食べるから旨さが倍増になる。
まず市役所に行った。
法律的に、籍を入れずに香緒莉を俺の扶養として世帯に入れる選択肢も許されているが、会社に届けなくてはいけないのとその他にも色々面倒なので、俺と同じ住所に、もう一人の世帯主 比内香緒莉 として転入届を出す事にした。
比内絵美子との世帯分離と住所変更も同時にした。
そして程なく新しい住民票を発行してもらった。
次は香緒莉の高校へ行った。
夏休みとはいえ、事務職員は出勤しているのは解ってっている。
その高校は地元でも有名な進学校だった。
――見た目と違って頭良いんだ、コイツ――
人は見かけで判断してはいけない事を思い知らされながら事務所へ行った。
住所変更届と保護者変更届を出した。
保護者の名前を比内絵美子から結城漣にするのに理由を聞かれた。
香緒莉との打ち合わせで、続柄を書く欄に兄と書いたが名字が違うので根掘り葉掘り聞かれた。
昔、親が離婚した時、父方の俺と母方の香緒莉に別れて暮らしてきたので、と言う事にした。
そして俺は父の先妻の子と付け加えた。そうしないと絵美子さんが11歳の時の子になるので苦肉の策である。
幸い高校には住民票の提出は有っても戸籍の提出は無い。
只、住民票の世帯主が本人になっている事も有って、旧住所から引っ越しした理由を又聞かれた。
俺は、書類に残さない事と口外しない事を約束させてから、事務長と二人で別の場所へ移動して伯父の性暴力の事を打ち明けた。
事務長は解ってくれたが、念の為に、『もし、この事がネットで広まったら教育委員会に直訴します』と言っておいた。
そして、学校の手続きは終わった。
隔して香緒莉は正式に同居人となって、俺も逮捕される心配から解放された。
そして帰り道中、助手席からの質問に又悩む事になる。
「ねえ、漣 お盆休み何処に連れて行ってくれるの?」
「それと何泊するの?」
――えっ、泊まる! そんな事言ってないぞ――
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