第17話 帰省 其の3 実家の主役に
駐車場と呼ぶには不規則なスペース、しかも舗装されていない平地の奥に実家が見える。
すでに、軽トラ1台と札幌ナンバーのワゴン車が停まっていた。
親父の農作業用の軽トラと、姉夫婦の車だ。
気の早い赤とんぼが三匹ほど軽トラの荷台の端で羽を休めていた。
2台の乱雑な停め方のお陰で、仕方なく親父の乗用車が収まっている車庫の前に車を停める。
「香緒莉、着いたよ」
固まった女子が助手席に座っている。
* * * * *
実家到着の4時間前、俺と香緒莉と樹所先輩の朝食会が船内のレストランで行われていた。
先輩は、作戦を変えて来たみたいだ。
高校時代の俺の過去を暴露しだした。
女子に告白して振られた話とか、試合で致命的なミスをして部員から、総スカンされた事や他の小さな俺にとってはどうでもいい事まで持ち出してきた。
「何でそんな昔の事話すんだ?」と俺が少しムッとすると、
「あら、云っちゃダメだったですか?」ととぼける先輩。
それを聞いていた香緒莉は、
「樹所さん、私 漣の事あまり知らないのでもっと教えてください」
「だって、漣の弱み覚えていた方が将来役に立つかも?」
「それでも、私は今の漣が大好きなのは変わりませんけど」
香緒莉の言葉で、先輩のねちねち攻撃は終了した。
次の攻撃先は香緒莉に移り、まだ高校生で若すぎると云うニュアンスの言葉を巧みに用いた柔らかい攻撃だ。
其処でも香緒莉の言葉に先輩は屈したみたいだ。
「あら樹所さん、この世の中に年齢とか年の差が障害になる恋愛なんて、無いのでは?」
そんな気まずい雰囲気で朝食会は終了した。
車で送るという俺の申し出を、
「あら、それじゃお邪魔になりますよね」
「それに、ターミナルまで迎えが来る事になっていますので」
と一蹴された。
* * * * *
香緒莉は船を降りたときのハイテンションが、実家に近くなるにつれて、口数が少なくなって緊張の度合いが濃くなっていたが、ここまでなるとは。
固まった生命体を車から降ろして玄関を開ける。
「ただいま」
「漣おじさん、おかえり」
迎えに出たのは、姪姉妹の
「私達も、さっき着いたばかりだけどね」
俺のうしろに隠れて縮困っていた香緒莉の金縛りが解けるのが早かったのは、間違いなく、年代が近いこの姉妹のお陰である。
最初に声を掛けてきたのは姉の方の陽菜だ。
「おじさんの彼女、わかーい。よろしくね。姪の陽菜です、高1です」
「あっ、香緒莉と言います。よろしくね」
すると、もう一人の姪が、
「あっ、ずるいお姉ちゃん」
「妹の花奈です。中2です。さぁ上がって」
と、香緒莉の手を取って引くように少し低い玄関から上げた。
――俺はどうでもいいのか――
同類が現れた事によって、香緒莉の緊張顔が、造り笑顔に変わり、そして造らない笑顔のなるまで時間はあっという間だった。
「おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん帰って来たよ」
「若ぁーい彼女さんも来たよ」と花奈が言うと、
「花奈、違うでしょ『おじさんの彼女のカオリさん』でしょ」
と、陽菜が言い直す。
と言って、居間で寛いでいる父母に香緒莉を紹介している。
まるで、前から知り合っていたかの様に。
遅れて俺が居間に入ると、その姪たちの紹介を、昼食と言うには豪華すぎる料理が並んでいる座卓の前に座っている、笑顔の父と母と義兄、そして、姪たちの言葉に台所から
「『いらっしゃーい、ようこそ』」
「お邪魔します、比内香緒莉と申します。高校三年です」
「いつも漣さんには良くしてもらっています」
そして、「あ、漣もおかえり」と香緒莉の出迎えとは真逆の冷めた様な姉の迎えも頂いた。
手土産をそれぞれの世帯に渡した後。仏間に向かい少し貫禄のある仏壇に手を合わせて帰郷の挨拶をご先祖様にすると、何故か隣で手を合わせている香緒莉も居た。
まあ、『行き場が無かったんだなぁ』と思っていたが、後でふたりになった時に聞いてみた。
「仏壇にお参りしていたよね?」
「一応、漣の嫁の気持ちでご挨拶しました」
――もう嫁の気分?――
そういえば実鈴は、唯一の1時間訪問の間仏壇にてを合わせる事はなかったなと苦い思い出を思い出してしまった。
――香緒莉はやはり実鈴の何億倍も人として優れている――
両親は一目で香緒莉を気に入った様で、優しい言葉で香緒莉と少し話していた。 香緒莉は両親の言葉に対して、意味が解らずとも相槌を打ち、聞かれた事にはちゃんと答えながら話していたが、直ぐ姪姉妹にジャックされた。
そしてJKとJCの姦しグループが結成された。
いつもながらのお盆風景だ。少し
そして、座卓の上の料理と冷えたビールは、寝る前まで入れ替わりその座面をにぎやかにしている。
香緒莉が、その晩餐後の食器洗いなどの片付けを手伝い出すと、陽菜と花奈も流し台の前に立って姉は職場を追い出された。
去年までは見られなかった風景である。〈香緒莉効果〉が随分浸透した様だ。
それが終わると、寝ると言って姦しグループ3人は二階へと上がった。
とても睡魔が降りてきている様には見えなかったのに。
案の定、にぎやかな声が二階から漏れて来た。
そうなると、当然予想されていた俺に対する姉の尋問タイムである。
「香緒莉ちゃん、いい娘みたいだけど、まだ若いよね。あんたどう思っているの?」
「それに、あんたもう実鈴さんの事は決着はついたの?」
俺は、実鈴との離婚が『もう過去の事』の説明からはじまり、
香緒莉の存在は、今の自分には大切な人になっている状態を出会いのきっかけを簡単に入れて説明した。
すると姉は、
「まあ、私から見ても香緒莉ちゃんは、あんたの前嫁とは比べ物にならない位良い子だよ、ちょっと若いけど」
「出会いに感謝して逃げられない様に頑張りなさい」
と応援してくれた。
その会話を笑顔で聞いていた父母も気持ちは同じようだ。
次の日、一族7人と香緒莉の8人で墓参りに行った。
ここでも、主役の座は香緒莉で有った。
みんなから可愛がられる香緒莉を見て俺は、
『あー、連れてきて本当に良かった』と心から思い、
嬉しさと安堵感から涙がつい滲んでしまった。
それを見逃さなかった姉が、
「あら、漣 泣いているの? 香緒莉ちゃんを見てご先祖様も安心しているんじゃない」と追い打ちをかけてくる。
勿論荷台一杯に積まれた米や野菜を帰りの同乗者に追加する事も忘れなかった。
帰りのフェリーには、お邪魔虫もいなく快適だった。
朝の出航だったので日中の船内デートは常に手を繋ぎっぱなしだった事も快適の要因のひとつだった。
船は夕方には八戸に着いた。
これから仙台まで帰るには夜道になる為、泊まる事にした。
フェリーの予約しかしなかった無計画な帰省の最後はラブホになった。
初めてのラブホに、香緒莉は戸惑いながらも興味津々であった。
「このチャンネル何」と言って映し出された映像に頬を赤らめながらモニターの中の男女の絡みに喰いついていた。
それから、そのモニターの前にあるダブルベッドで同じような絡みを繰り広げたのは言うまででも無い。
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