第16話 帰省 其の2 初体験 by ferry

 俺は、中学生の頃から背が高く、中3ですでに今の身長近くはあった。

 後先考えずに、必然的にバスケ部に入った様な気がする。


 樹所は一学年上で、中学時代の上級生は雲の上の存在の風潮だったので、顔と名前を知っているくらいだった。

 それから地元から少し離れた高校に進学し、俺は性懲りもなく又バスケ部に入部した。

 

 そして部活最初の練習で、ジャージを着た女子の上級生から声を掛けられた。


「結城くん?だよね」

「私よ、同じ中学に居た樹所よ」


「あー、そういえば、先輩ですね」


「私、マネージャーしてるの、よろしくね」


 そんな会話が俺と樹所の初めて交わした会話だったような気がする。

 高校時代俺は万年サブ要員で試合に出る機会もそれほど多くなかったが、なんとか3年間辞めずにバスケをやり通した。


 樹所とは2年間、部活だけの付き合いだったが、試合ともなるとお互い応援する側なので、良く話した方かもしれない。


 只それだけの関係だったが、社会人になって、初めての転勤先で対面した時は驚いた。

 それから、何かにつけて「結城くん」と呼ばれ、そして先輩面されて多少億劫おっくうな存在に成っていた。




 * * * * * 




「あら、そちらのお嬢さんは?」

 と言って香緒莉を睨むようにのぞき込む。


 ――いやな奴と会ってしまった――


「それに、結城くんって飛行機で帰省するはずでしたよね?」


「いやたまには、のんびりと船も良いかなと思って」


 それ以上の返事を躊躇していると、


 いきなり香緒莉の方から、


「漣は、わたしの為に船に変えてくれたのです」

「私は、比内香緒莉と申します」

「私は、漣の家の同居人です。これから漣の実家に行く所です」

 と、いとも簡単に言い放った。


 少し、むっとした様な顔で樹所は、

「あー、そういう関係!つまり同棲していると」


「違います、今はまだ同棲ではありません!只の同居です」


「あ、『まだ』と言う事は、『ゆくゆくは』と思っていいのかしら?」


「どう思おうと、それはあなたの自由です」




 この女性どうしのバトルに、俺の口出す間が無かった。



 そのバトルの少しの合間を見つけ、


「こちら、会社でお世話になっている樹所喜美さん、そしてこいつは、比内香緒莉です。さっき本人も言っていた俺の同居人」


 と、お互いを紹介するのがやっとだった。




 その場の雰囲気が気まずくなっている途中、突然俺の腹の調子が悪くなってしまった。

「すまん、ちょっとトイレ、別に逃げる訳ではないから」

「戻ったら、もう少し話そう」


 そう言って、やむをえずその場をはなれて、暫く経って戻って来ると、空気が変わっていた。


「結城くん、香緒莉ちゃんを救助したんだって?」

「ま、困っている人を見捨てないなんて中々出来ることじゃないよ」

「それも何かの縁だから大事にしなさい」


 ――どうしたんだ、さっきまでの殺気が消えている――


「それじゃね香緒莉ちゃん、又明日」

 と言ってKK先輩は去って行った。




 * * * * * 





 八戸へ向かう帰りのフェリーに乗る準備をしていた早朝、高校の同級生でバスケ部OBの高柳健吾がいきなり実家を訪ねて来た。

 俺が欠席した昨夜のバスケ部OB会の話だそうだ。


「漣、お前先輩と何かあったのか?」


「先輩って誰」


「KKだよ、樹所先輩」

「先輩、酒が入ってからかなり荒れていたぞ」

「何を言っていたのかよく判らなかったけど、お前に恨みがあるような言葉を炸裂していたぞ」


「『結城の奴』とか、『あんな小娘』とかほとばしっていたぞ」

「なんか心当たり、ないか?」


 その時、香緒莉が家から出てきた。

「あらお客さん?」


 すっかり実家の主になっているオーラを出していた。


 高柳は、

「あ~~そう言う事」と言って帰っていった。




 * * * * * 




 話は、仙台発苫小牧行きのフェリーに戻る。


「香緒莉、先輩と何かあった?戻ったら雰囲気が全く変わっていたのだけど」


「いえ、特別な事は何も」

「只、誤解を解いて貰っただけです」


「どうやって?」


「事実をありのままに伝えただけですよ」

「それと、私の気持ちを正直に話しただけです」


「正直な気持ち?」


「それは、部屋へ戻ってから教えます」




 ふたりは特等洋室へ戻った。


「先輩と何があった?正直な気持ちとは?」




 香緒莉が話し始めた。

「最初は、私にとって漣は、親切で優しい人だったの」

「でも、3日一緒に居ただけで好きになったの」

「その時、中途半端な告白をしたよね、あの時は自分の気持ちに自信が無かったの」


「でも、私の為にこんなに一生懸命に尽くしてくれる漣を見て、はっきり自信が持てました」

「私、比内香緒莉は結城漣さんが大好きです」

「そして凄く愛しています」

「そして漣がプロポーズしてくれるまで待っています」




「樹所さんには、私が漣に助けてもらった事をすべて話したわ、出会い系の話を除いて」

「そして今言った事と同じ内容も樹所さんに話しました」

「きっと私の真剣な思いを分かってくれたのだと思います」

「樹所さんは明日の朝食を一緒にと誘ってくれました」








 俺は、直ぐには言葉が出なかった。


「………………」

「…………か お り の き も ち は」

「………………」

「よく分かった」


「そして凄く嬉しい」


「俺も香緒莉の事は好きだ、いや大好きだ」

「その気持ちに、だいぶ自信がついてきた」


「しかし、まだプロポーズは出来ない」

「その理由がバツイチのトラウマなのか、自信の不足なのかは分からない」


「けど、将来は香緒莉にプロポーズするだろう」



「今は、只、お互い、大好きの関係じゃ駄目かい?」





「じゅうぶん…………です」

「いつまでも待っています」





「それと…………」


「今日…………だいてくれませんか?」


「せいり 終わったので」






「いいのか?初めてが俺で」



「漣じゃないと駄目です」



 そう言って香緒莉は俺の居るベッドへやって来た。

 そして、着ているすべての布を脱ぎ捨てた。


 ――眩しい躰だ――



 それは、長い、長い口づけから始まった。

 香緒莉は俺を信頼しきって、されるがままになっていた。

 それから、優しく、優しくその眩しい肌を撫でる様に触れ、俺の持っているスキルをすべて使いながら、最後には俺と香緒莉は一体となった。


 香緒莉の顔は初めての苦痛より、仕合せ感に満たされた様に見えた。



 最後に香緒莉が言った。



「漣 ありがとう」

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