第2話 根負け

 最近の私生活は乱れに乱れまくっている、俺こと結城ゆうき れん27歳


 自身の事は後で話すとして、出会い系で会った今日の相手は、少女だった。

 勿論、『児童なんとか法』に引っ掛かり、俺的にもNGなので、会ったその場でお別れのはずが、事の成り行きで、今しがた大型店舗の駐車場に着いた俺の愛車の助手席には、児童が座っている。

 元々出費を考えていたので、大の二枚も出してやって直ぐ車から下ろせば関わらなくて済んだ筈だが、


 少女の暗くて脅えた表情が気になり、どう見ても訳あり的な状況が俺の中に潜んでいた詮索心を引き出してしまった。




「お金、貸しても良いけど」


「本当ですか?」


「けど、東京に宛はあるの?」


「おとうさん……」


「ああ、東京にはお父さんが居るんだね」


「うーん……たぶん?」

「前と同じ所に居れば?」


「前って?」


「……4年生の時だから8年前」


「でも連絡は取れるのだよね?」


 少女は首を横に振った。




 それから経緯の一部を話し出した。


 

 少女が4年生の時別れてから一度も会う事は基より連絡も一切無いらしい。

 当時家に電話は無かったらしく両親が携帯を各自持っていたらしい。

 そして父親の番号を少女は知らないと言う。

 だから、父が以前のままで暮らして居れば再会は容易だとも言っていた。

 しかし、以前と同じ仕事をしていれば、家に居るのは週に2.3日なので、無事前のままでも、再会は運に頼るしか無いらしい。


「これから新幹線で行っても家に着くのは夕方位かな」

「君が運に任せて行くのならお金貸してあげるよ」

 (返ってくる宛は全く無いけど)


 俺はもうこれ以上〈家出計画〉には関わりたくない気持ちでそう伝えた。


 すると少女は、

「あのぉー………」

「こんな事、おじさんに頼めるかどうかわからないけど、お父さんの状況を調べる事って出来ないでしょうか?」


 ――俺は、おじさんかよ――


 少女は更に話した。


 上手く会えても、もし父に新しい家族がいたら、少女の入る隙間が無いばかりでなく父に迷惑をかけるので、いまいち東京行きに踏み切れない事を。


 そしてこう付け加えた

「もし調べられるのならお願い出来ないでしょうか?おじさん」


 ――又おじさん?――


「まあ東京には、それに通じた友達はいるが、それでも2.3日は係るよ」

「その間君はどうするの」 

「それから、判ったとして連絡はどうするの。又サイト?」



「えーと、サイトは使うのが今日初めてなの!」

「同居している従姉の外出中に、従姉のパソコンの中あるサイトで従姉に成済ましたの」


 ――道理でプロフが女子大生のヤリマン――


「だから、バレるとまずいので今日の履歴は直ぐ消したの」

「それと私のスマホは、家の中だとlineは使えるのだけど、電話は使えないの」


「とりあえず分かった」

「今、可能かどうか聞いてみよう」


 そう言って俺はつい最近お世話に成った友達で、東京に居る白井隆志へと電話を掛けた。

 留守番電話になっていた。そう珍しい事ではない。

 今年、何回も同じような状況は体験済みだった。

 忙しいのだろう、新米弁護士だから。


 俺は、詳しい情報をメールして、lineで頼んでみると言って、少女と父親の情報を紙に書いて貰った。



『父親 廣瀬 太蔵』

『以前の住所 墨田区○○14丁目**番地○○マンション1102』

『以前の勤務先 ◆◆通運●●配送センター』

 以上の情報を打ち込んだ後で、

 太蔵氏の安否?

 住所は依然と変わらないか?

 元気なら新しい家族がいるのか?

 仕事は依然と変わらないか?

 を調べてもらうように丁寧にお願いした。

 勿論その前に、俺の離婚問題に走り回ってくれたお礼を言ってから。


 その後、lineでメールした事を伝えた。




 調査を頼んだ事を告げた後、依頼人の少女に言った。

「このくらいの調査なら、俺の友達だから多分調べてくれると思うよ」

「結果はlineで教えるから、友達追加登録しよう」


「此処、wifi使えないから無理だよ」


「じゃ、IDその紙に書いて。家に行けば使えるのでしょ」

「それと、もう会うことも無いと思うからこれ交通費」

 と言って大3枚を財布から出した。


 すると、

「おじさん、肝心な事忘れている」

「私は家に帰らないのだよ! って言うか、あんな家怖くて帰れない」


 ――どんな恐ろしいめに遭っているのだろう?――


「とりあえず、お父さんの事が判るまでおじさんの家に泊めてもらえませんか?」


 ――あっ、そういえば家出少女だった!コイツ――


 すっかり忘れていた。


「それなら2.3日だったら、ネカフェにでも泊まったら?」

「あそこならwifiも使えるし」


「何言ってるのおじさん、私は17歳!一人では入れないでしょ!」



 ――そうだった!コイツは児童だった!――



「………………」

「だから17歳だから、おじさんの家には泊められないの!」


 ――あっ、自分で言ってしまった!――


「おねがいしますおじさん。私なんでもしますから」


「だから何かしてしまったら、おじさんは逮捕されるの!」


「おねがい………し………ま………す」


「もしうちに泊まったら、学校はどうするの」


「何言ってるのおじさん、今は夏休みだよ」


 ――うーん、完全に押し切られている様な気がする、まずい――


 その時だった。

 白井隆志からlineが来た。

 俺は無料通話に切り替えて、後で詳しく話すから、とにかくこの案件を引き受けてくれる様に低姿勢で頼んだ。

 最後に『大至急』の言葉を忘れずに。



 そして、やむなくその少女を俺の家に連れて帰った。


 少女の名は 比内ひない 香緒莉かおり


 その時は、明日には東京の父親の元へ出立するだろうと安易な予想をしていた。

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