第3話 救助?
ショッピングセンターの駐車場を出て少し北へ走ると見えてきた。
住宅街の中にある細くて高い建物、俺が住んでいる賃貸物件だ。
車を駐車場に止めて、今エレベーターの中に居る。
何故か少し大きいリュックを背負った少女も一緒だ。
車の中では、殆んど会話は無かった。
少女が余り喋らなかったのは、部屋に着いてからの少しばかりの可能性に対しての覚悟を持った様にも思えた。
俺はそんな気は全く無かったが、状況が状況だから少女の気持ちが分からない訳でも無い。
E/Vは13階で止まり、降りてから左の方へ歩いて突き当たりまで急いで進む。
俺の肩までしか背丈が無い少女も必死で付いて来た様だ。
ドアの前で止まると、少女は表札が目に入ったらしい。
「あっ、おじさんて『ゆうき』さんなんだ!」
――よく読めたな、俺の名字――
続けて「名前は、なんて言うの」と声をあげた。
俺は黙ってドアを開けて中に入った。
それから声を出して照明とエアコンをONにした。
「わー凄い。Bluetoothなんだ」
又少女が声を上げた。
俺は、キッチンに向かった。そして換気扇を回して煙草に火をつけた。
そして、ゆっくりと噴かした。
一本吸い終わるとゆっくり深呼吸をしてそれからリビングに戻った。
少女はまだ立っていた。
少女にソファーに座る様に促して、俺はその隣に座る訳にはいかないので、ダイニングチェアーを持ち出して少女と対面した。
出会ってからずっと少女の横顔しか見ていなかった、いや必然的に運転席と助手席の配置だった。
初めて正面から見る少女は、さっきまでの幼さが、一段階大人側へ上がった様に見えた。
幼さは残っているが、割と可愛い顔をしている。
正面からだと鼻の低さが分からないからだろう。
体は華奢だがよく見ると、そのボディラインは17歳に見えなくもない。
それでも、俺の中の『悪い俺』が出るような気配は起きなかった。
「俺の名前は 結城 漣 27歳 新米のバツイチ 君は」と話を始めた。
「私は、比内香緒莉 17歳 高3です」
「お世話になります。そしてありがとうございます」
「君のお父さんの調査は、先程話した通りだ」
「多分早くて明日、遅くても明後日には判るだろう」
「それと費用は心配しなくていい。調査員は俺の友達だから」
そして、
「それと一番大切な話だけど、君が此処にいる間、俺は君には指一本触れないから」
「そうしないと、逮捕されちゃうのもあるけど、俺はガキには興味ないから」
「だから、安心して居てくれ。短い期間だけど」
それから続けて、
「きみっ、いやカオリちゃんが家に帰りたくない理由なんだけど」
「話したくなければ、聞かないけど」
「………………」
「え~と…………」
「又今度でいい?」
――あー、聞かなきゃよかった!それと今度は無いよ――
「ああ」
聞いた事を後悔しながら、答えが無い事にほっとした。
最近、自炊をする気になれない俺、冷蔵庫の中身と言えば、缶ビール、スポーツドリンク、エナジードリンク、出会い系の為の精力ドリンク等の飲み物以外の品物は、チョコレートとバナナ位しか入ってない。
食材は皆無だ。
近頃の休日の夕食はいつも、コンビニ弁当か外食が殆んどだった。
今日の夕食は、世間の目の警戒心から、必然的に宅配の類になる。
「カオリちゃん、寿司は嫌い?」
「嫌いじゃないけど、いえっ大好きです」
それを聞いて近くの宅配寿司に電話をする俺。
「それと、あまり
そう言うと香緒莉は、笑い出した。
「そんなの出る訳ないよ!私の事心配する人なんか誰もいないもん!」
「そうかもしれないけど、俺を助けると思ってお願いします」
「一種の救助だから!」
と、言って非通知設定した俺のスマホを香緒莉に渡す。
この件は、友達の家に泊まると言う事で今日の所は一応連絡して貰った。
香緒莉は、何年か振りにイエデンに電話したそうだ。
寿司の到着を待つ間、香緒莉のスマホを俺の家のwifiに繫げてlineで友達になった。
これで『友達の家に泊まる』と言ったのが嘘でなくなった。
「カオリちゃん、寿司来るまで少し時間あるから先にシャワーに行って来て」
「バスタオルとタオルは洗面所の収納に入っているから適当に使って」
「覗くような事はしない、いやあり得ないから安心して」
――あり得ない、あり得ない!――
彼女が浴室へ行っている間、白井隆志に電話して今日の出来事を一部始終話した。
俺の話を聞き終わった白井から爆笑された。
その後、俺の離婚に対しての苦労話を恩着せがましく聞かされた。
俺は低姿勢にならざるしかなく、香緒莉の父親の早い調査を再度お願いして会話を終えた。
シャワーから出てきた香緒莉は自分のスェットに着替えていた。
さすが家出娘、準備万端だ。
よく見ると、香緒莉はやはり可愛い。
そこに寿司が到着した。
何故かダイニングでなく、ソファーに二人並んで座って食べた。
車の中の位置取りと逆で右側に湯上りの香緒莉がいた。
しかも車の中より近い。
湯上りの香緒莉が少し色っぽく見えたのは、きっと気のせいだ。
食べ終わって、俺はシャワーを浴びてリビングに戻ると、寿司桶は綺麗に洗われて返却状態になっていた。
その後の二人は無言状態で、ソファーに並んでいた。
各自の視線は自分のスマホに向けられていた。
まるで、電車の中の光景その物だった。
じゃんけんで、ベッドかソファーかを決めて、各自睡眠に入った。
そして、何事もなく朝を迎えた。
じゃんけんで負けた俺がベッドで目覚めたのは、香緒莉の優しさなのか遠慮なのかはわからない。
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