第1話 出会い系
灼熱の季節が今年も又やって来た。
此処は東京より緯度の数字は多少多い。
しかし、地獄の釜蓋が開いたような暑さは東京とさほど変わらない。
北海道生まれの俺には正に地獄そのものだ。
この季節は、いつもの年の様に必然的に室内中心の生活になる。
地獄と言えば、あの時から、
週末にもなると、俺の心は俺の身体から抜けて、地獄の方へ行っている様だ。
平日は、仕事に精を出す事によって、少し地獄から呼び戻せている
昨日は、毎週の如くの金曜夜の深酒のせいでほとんどベッドの中で過した。
そして日曜日の午後、いつもの様に待ち合わせだ。
今日は相手が指示したコンビニの駐車場、最近のいつものパターンだ。
端のスペースに、いつでも出せる様にエンジンを掛けたままバックで止める。
今は夏なので違和感はないが、他の季節でも同じだ。
ナビの時計に目をやると、約束の時間までは、まだ15分ある。
――連絡は10分後でいいな――
俺は、スマホを取り出してゲームの続きを立ち上げた。
その時だった。
いきなり、ドアが開いて、助手席に誰かが座った。
――しまった!ドアロックするのを忘れた――
「お待たせしました………」
何かに脅えている様な小さな声が左側から聞こえた。
その後は無言だ。
――別に待っていないけど――
俺は首を左に向けて確認した。
――誰かと間違ったのだろう、若すぎる!いや幼すぎる――
「あのー、人違いじゃないですか?」
するとその少女は、やはり小さな声で、
「だってナンバーと車の色、一致しますよ」
「黒い車で下二桁〇〇番ですよね」
「サスケさんですよね」
「………………う~ん、まあ」
と返事した後、車から直ぐ降りてもらう口実を考え始め、頭の中の整理が終わらないうちに、
「とりあえず車出して下さい、家の近所だから見られたらちょっと」
と、小さな声で命令する助手席の少女。
俺は、渋々車を出した。
少しぐらいのドライブなら、逮捕される事も無いだろうと自分に都合のいい屁理屈を付けて。
そして、此処からさほど遠くない、広い駐車場の有るショッピングセンターで降ろそうと思い、北の方へ車を走らせた。
* * * * *
サスケとは俺のサイトネームで間違いない。
この子がルミなのか?成り行きから察すると間違いないだろう。
「君、ルミちゃんだよね。悪いけど今回の話は無かったことにしよう、俺も逮捕されるのは嫌だからね」
と言った後、
「君、どう見ても18歳未満だよね、サイトは胡麻化しても俺は胡麻化されないよ」 と付け加えた。
すると、ルミは、
「……すいません。本当は17歳です」
――じゅ、じゅうななさい!どう見ても中学生だろ――
後で確認したら間違いなく17歳だった。
「でも………今、お金が必要なんです」
「……必ずお返ししますからお金だけ貸して貰う訳にはいかないでしょうか?」
「うーん、今運転中だから、もうすぐ広い駐車場に着くから、其処で話しようか?此れでも飲んで」
と言って用意していたペットボトルのお茶を差し出した。
* * * * *
俺は、この少女ルミと待ち合わせした事は間違いない。
いわゆる出会い系サイトである。
そしてルミとは今日初めて会う。
この類のサイトは、存在は知っていたが、俺には全く必要ないサイトだった。
半年前までは。
でも最近は週一位で運用している。
主に日曜日になる事が多い。
今日も、朝にサイト内の掲示板を物色していると、ルミと名乗る娘からサイトメールが来た。
普段サイト内のメールは、自分に対しての返信以外は殆んど見ないのだが、一寸したスマホの操作ミスで開いてしまった。
『急で申し訳ありませんが、今日なるべく早い時間で会えませんか?』
それだけしか書いてなかった。
何か場慣れしていない感じなのに、焦っている様に思えた。
気になって、プロフをチェックしてみた。
プロフには、『22歳 体形スリム 女子大生 大人の交際 助けて欲しい』等が書いてあった。
此の系でのこのプロフは、明かに援交目的なのが一目瞭然だ。
俺も、このサイトの使い方は、後腐れのない一度きりの付き合いをメインとしているので、サイト用語での条件をメールした。
するとルミは、その隠語がよく解らない様だったが、待ち合わせ場所のコンビニを指定して、どれ位で来られるか尋ねられた。
30分位で着きそうな場所だったが、色々準備も有るので、1時間後と言って車の色とナンバーの一部を書いて送った。
普通は甘い言葉の一つでも返って来るのだけど、ルミは只『了解です』だけだった。
* * * * *
20分位走ると、目的のショッピングセンターに着いた。途中コンビニは何個か有ったが、バス停からは遠いし、人目を避けている様にも見えたので、此処にした。
此処は人が多すぎて個人は目立たない。
何か事情が有りそうだったが、余り関わりたく無かったけど、
「どうしてお金が必要?」と聞いてみた。
「こ こうつうひ……」
「交通費?どこまでの」
「とーきょー」
聞くまででもなく、少女の足元の一寸大きな荷物が物語っていたが、
俺は「家出?」と聞いてみた。
「………………」
ルミは言葉を発する事なく、頷く様に下を向いた
図星の様だ。
絶対関わりたくないと思った。
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