プロローグ 赤い糸
――まったく、このくそ暑いのになんで此処なんだ!――
今の時期は一年の中で一番暑い季節、言わずと知れた真夏である。
今俺は自分の意思に反してエアコンの無い屋外で長い行列の中心にいる。
北国生まれの肉体にはまさに地獄だ。
俺たちは、俺一人の反対が撥ねられた三対一の多数決によって決まったディズニーのテーマパークに居る。
グレープ活動の一環と名は付くが、要するにダブルデートだ。
何故か人気のアトラクションの長蛇の列に俺が並ばされる。
「漣、悪いけど並んでいて~」
と実鈴は甘い声で俺に命令する。
この頃から、山下実鈴は要領が良かった。
その悪い性格を、いい方に解釈して付き合っていた俺にも問題があった事を、その時はまだ気が付いていなかった。
ちっとも楽しくなく只灼熱だけが印象に残ったランドの帰り際、出口の方へ歩いていると、その通路沿いのショップから勢いよく出て来た小学生位の女の子と、接触事故を起こしてしまった。
俺は大学生、相手は小学生。
当然俺には被害は無く、その女の子が地面に倒れた。
季節がもっと穏やかであれば事故は防げたかもしれなかったが、俺には回避する余力は残っていなかった。
女の子は、膝を痛そうにしていたが、出血は無い様だった。
そして、手に持っていた袋からキャンディらしき物体が大量に
後ろから、その子の父親らしき男が来て、娘の飛び出しを俺に詫びた。
その後でやっと、
「カオリ、大丈夫か?」
と我が子を心配して声を掛けていた。
出口の方では俺の事故に、我関せずとばかりにこちらの方へ声をあげる実鈴が居た。
「れーん、何してるの!!先に行くよ」
俺は、零れたお菓子代と言って、当時俺にとっては大金だった二千円をその親に渡し、女の子に怪我が無い事を確認して退散した。
その時に俺は一応女の子に謝った。
「カオリちゃんて言うの?」
「ごめんね、ぶつかっちゃって!怪我はないかい?」
「お兄ちゃん気が付かなくて」
「あ、大丈夫です」
「それに、私の方が悪いので、ごめんなさい」
そのとき交わした言葉が、
ふたりの初めての会話だと言う事も、
ふたりの場所に、赤い糸があった事も、
そのときはまだ気が付かないふたりでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます