最終話 結婚式~お仕合せに

 今朝テレビでは、大雪山系に初雪が降った事を知らせていた。

 街には、街路樹が色を競っている深秋の日曜日、今俺はホテルのチャペルに居た。

 牧師さんの前で、入り口の扉の方を見ながら香緒莉がヴァージンロードを歩いて来るのを待っている。



 今日は、俺と香緒莉をみんなで祝ってくれる日となっていた。



 席には、田舎の両親、仙台から駆けつけてくれた香緒莉ママ、姉一家、香緒莉の従姉の美彩とその母親、それに香緒莉の友達の樹所貴美と俺の友達の白井隆志もいる。

 樹所は香緒莉の切望で呼ぶ事となった。

 ふたりの馴れ初めには白井の功績も大きかったので呼ぶ事にした。


 その中に混じって俺が今日初めて会った母娘の3人も居た。




 * * * * * 




 話はお盆までさかのぼる。


 言い出したのはお袋だった。

 それは遅刻した香緒莉が来て、全員揃った後の夕方の晩餐の席での事だった。


「漣あんたは二度目でも、香緒莉ちゃんは初めてなんだから、ちゃんとケジメつけた方が良いんじゃない?」

「香緒莉ちゃんにも、ウエディングドレス着せてあげなくちゃ」


 それを聞いた香緒莉は、顔をほころばせながら、

「いえ、私は大丈夫です!」

 と、心にも無さそうな返事をした。


 俺は、

「そうだな、あまり香緒莉の事を考えていなかったかも」


 母は、

「そうだよ!こんないい娘、ないがしろにしたら駄目だよ!」

 と続けた。



 鶴の一声じゃないけど、母の一声で二人の式を挙げる事が決まった訳である。


 田舎から帰ると、俺は直ぐ準備に取り掛かった。


 日取りが決まった後、俺は手紙を書いた。

 あて先は九州である。





 拝啓 初秋の候 お元気でいらっしゃいますか。

初めてお手紙を差し上げる無礼をお許しください。

私は この度縁あって比内香緒莉さんと夫婦になりました結城 漣と申します。

廣瀬様には、そちらの方にご家庭があって幸せにお暮しの事と存じます。


私は一度結婚に失敗をしている身では御座いますが、香緒莉に花嫁衣裳を着せてやりたく、今回式をする運びと成りました。

つきましては、お父様にも是非香緒莉の花嫁姿を見て頂きたく、筆を取った次第であります。

今まで、いろんな事があったとは思いますが、何卒ご出席頂けると香緒莉も喜ぶと思います。


尚、この事が廣瀬様にとって不都合であれば、このお願いは無かった事にして頂いても構いません。

                                敬具


廣瀬太蔵 様

                                結城 漣




 そして招待状も一緒に添えた。



 

 * * * * * 




 ◆1時間前の新婦の控室


 ドアがノックされた様です。


 「はい、どうぞ」


 入って来たのは家族連れの4人でした。

 その中で唯一の男性と目が合いました。


 お父さんでした。


「香緒莉かい?」


「…………お父さん」

 それだけ言うと、化粧した顔が一気に溢れる涙によって、崩れていきました。


「おめでとう香緒莉」

「…………すまなかった」


 お父さんも、それ以上は言葉が出なかったみたいです。


 そして後ろにいた奥さんが私に気が付いたみたいです。


「香緒莉さんおめでとうございます、そして初めまして、家内の恵梨と申します」

「それと、愛菜まな美愛みあです」

 と私の妹を紹介された。


 その後、

「もし間違っていたらごめんなさい」

「もしかして去年の夏に九州に尋ねて来ましたよね?」


 ――やはり女の人は凄いな――


「あっ、はい」

「あのときは失礼しました」


 それを聞いた父は、

「あっ、あの時の…………」

「ごめんよ!気が付いてやれなくて」

「せっかく来てくれたのに…………」

 その後父は泣き崩れていました。

 それを不思議そうに見ていた妹たちが居ました。


 奥さんは妹たちに、

「愛菜、美愛、あなたたちのお姉ちゃんですよ」

 と、紹介されました。


 私は、

「お父さん気にしないでください、私はあの時名乗らなくて良かったと思っています、もし名乗っていたら私は漣と一緒になる事は有りませんでした」

「今はとっても幸せです、だからこれで良かったと思います」


 そう言ってみんなで笑顔に成りました。


 同じ部屋に居た母も、言葉は交わさなかったが、父とはアイコンタクトを取っていたようです。



 ◆40分前の新郎準備室


 ノックの音がした。


「はい、どうぞ」


 入って来たのは初めて見る家族と思われる4人だ。


「結城 漣さんですね、初めまして廣瀬です」

「この度お手紙を頂いて凄く嬉しかったです、ありがとうございます」


「いえ、わざわざ遠い所をありがとうございます」

「それより、後先に成ってしまいますが、娘さんとの結婚を許してください」


「いや、私は親らしい事など何もしていないよ」

「お礼を言うのはこっちの方だよ」


 そして、太蔵氏は私の顔をしばらく見て少し考えている様に見えた。


 そして、

「つかぬ事を尋ねるが、結城君は10年位前の夏にディズニーランドに行った事は無いかい?」


「うー、私は後にも先にもディズニーランドは一回だけです」

「確か、凄く暑かったのは覚えています、大学生の時だから、10年位前です」


「そのとき、通路で誰かと衝突しなかったかい?」


「あー、そういえばそんな事…………」


 今度は二人揃って


「『あっ、二千円の』」


 太蔵氏は、

「君にぶつかったのは香緒莉だよ」

 そして、

「すごい運命だよ、君たちは」


 そんな会話で、和やかな対面となった。




 * * * * * 



 今ウエディングドレスを着た香緒莉が曲が鳴る中、太蔵氏の腕に手を添えて私の方に歩き出した。


 ――綺麗だ!香緒莉、綺麗だよ――


 そして間もなく私の傍に着いた。


 牧師さんの言うままに、誓い、指輪交換、キスを済ませ、皆で賛美歌を歌い無事式が終わった。


 その後、ささやかな内輪だけの披露宴が行われ、皆から祝福された。



 世間では、一般的と言う内容の式と披露宴だったが、


 俺と香緒莉にとっては、凄く特別な一日となった。






 これからの結婚生活の未来には、いろいろな出来事があると思いますが、今はふたりでも家族の人数が増えて、幸せがずうーと長く続く事を信じて終わります。





 ――おしあわせに――

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