第12話 同居の始まり
家に帰ると誰かが待っている そんな普通の生活の一コマを俺は3年ぶりに味わった。
香緒莉のお迎えは、にっこにこの笑顔だ。
更におもいっきりのハグで、暫く味わった事のない最高の幸せを感じた。
しかも、台所からなんかいい匂いが漂ってきている。
――なんだ!この幸せ感、けっこうヤバイ――
* * * * *
今日、明日の週末は色々と忙しくなりそうだ。
朝に遡る。
昨夜同居を決めた二人は、トーストとコーヒーの普通の朝食を摂っていた。
香緒莉はコーヒーを飲めないそうで、自分で調達したアップルジュースを飲んでいた。
同居の方針が決まったせいか、もしくは違う理由なのかは分からないが、ニコニコの笑顔である。
その笑顔はやはり可愛い。
――ジュースか、やっぱり子供だ――
「香緒莉、アップルジュース好きなの」
「嫌いでは無いけど、特に大好きって言う訳では」
「じゃ何故アップル?」
「…………うー、バスト育つかもって思って」
「漣に好かれるバストになるかもって、ネットで見て」
――はぁー! ま いいか、嫌いじゃないし――
「そんなに気を使わなくても、大丈夫だから」
「はーい、気は使わない様にします、でも、胸はあった方がいいと思うので、がんばりまーす」
「漣もその方がいいでしょ?」
「ま、胸の話はその辺で」
「今日は一人で出かけてくるから、留守番していてくれないか?」
「帰りは何時になるか分からないから、昼と夜のご飯は一人で食べてくれないか」
「お金はここに置いてあるから、好きな物を買うなり作るなり自由にして」
「同居を具体的に進める為だから、我慢してね」
「はーい、良い子にしてまーす」
「漣、がんばってね」
――おっと 応援だけなら猿でも出来るぞ――
「おうっ」
食事が終わると、寝室に戻ってパソコンに向かい書類を一部作って印刷した。
それと、いかがわしいサイトにアクセスして、一通メールを送った。
「じゃ、行ってきます」と、言うと
「いってらっしゃーい」と、見送られる。
何か、普通の家庭みたいだ!
あっ、今までが普通じゃなかったと言う事だ。
ただそれだけの事だ。
* * * * *
そのあと俺は、奥村美彩と比内絵美子に会ってきた。
そして同居するにあたっての障害は、クリアされた。
後は学校と役所かな?
帰ると香緒莉は食事を作って待っていてくれた。
料理名はわからないが、匂いはいい。
俺は途中で少し食べたので、特に腹は減っていなかったが、香緒莉の気持ちを大事に思って二人で美味しく頂いた。
そして、又幸せを感じてしまった。
食事中香緒莉は、俺からの報告を待たずして、
「さっきお母さんからline来たの」
「お母さんのline、何年ぶりかな?」
「『いい人に拾ってもらって良かったね』って言ってたよ」
「それから『頑張って』とも書いてあった」
と嬉しそうに俺に報告した。
「お母さんと普通の会話が出来て良かったね」
「うん、全部漣のお陰だよ。すごくうれしい」
「あと、こうも言ってた」
「『結城さんに女にしてもらいなさい』って」
「それ、どう云う意味なんだろう」
――うっ、あの女――
「さー?」
「それより明日は早いからシャワーして早く寝るぞ」
そして、又一つのベッドで二人密着して眠りに就いた。
明日は布団を買いに行く、一緒に寝るのは今日で最後だ。
勿論、その夜も何もなかったが、くっついた時に香緒莉が言った。
「あれ、漣の身体、美彩お姉ちゃんの匂いがする」
「お姉ちゃんとしたの?」
――すっ、鋭い!コイツ絶対浮気出来ないタイプだ――
「バカ言うんじゃない、そんな事する訳ないじゃないか」
「話をしただけだ」
次の日の日曜日の朝、朝食が終わると二人でバスに乗って布団を買いに出た。
昨夜代行を頼める雰囲気で無かった事の弊害に遭った俺の愛車を駐車場へ取りに行ってから、家具屋へ移動した。
布団だけ買う予定だったが、いろんな組み合わせと価格等を考慮したら、結局ベッドにしても大差が無いのでベッドにした。
プラスチック製の整理ケース等と一緒に夕方に配達してもらう様に手配した。
家具屋の用事が終わると、家具屋から貰った空の段ボール箱を持って元の香緒莉の家に向かった。
香緒莉の荷物を引き取りに行くためなのは言うまででも無い。
程なく元香緒莉の家に着いた。
呼び鈴を鳴らすと伯母が出てきた。
俺は香緒莉だけ引越しする事を伝えて母親の同意書を見せた。
伯母は「どうして香緒莉ちゃんだけ?」と聞いてきた。
「その訳は、あなたのご主人に聞いて下さい」と突き放した。
レイプ魔のロリコン親父は奥に居る様だが、決して出てこない。
伯母に構わず、香緒莉の部屋で荷造りを始めると隣の部屋から美彩が出てきて手伝ってくれた。
「あっ、結城さん昨日はどうも!手伝いますね」
「香緒莉ちゃん、いい人見つけたね」
「お姉ちゃんありがとう」
「お母さんからも、同じこと言われたよ」
机は車に乗らないのと俺の机を使ってもらう予定なので、主に制服を含む洋服と教科書等、勉強道具が愛車の主賓になる。
リアゲートを開けて荷物室一杯に積み込み、元家を後にした。
帰り際、香緒莉に気付かれない様に、美彩が俺に言った。
「乾いたら又お願いね。今度は友達としてだから諭吉無しでね」
――うっ、俺は
一瞬そう思った自分の心に驚いた。
その時、美彩を見つけた香緒莉が何か訊ねている様だ。
その会話が聞こえる距離に俺はいなかったので何の話だか判らない。
「
美彩は、俺の方を見ながらにっこり笑って答えていた様だ。
それを聞いた香緒莉の頬が赤く染まった様に見えたのは、眩しい夏の陽が照らしたからなのか、良く判らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます