第7話 妻の裏切り~離婚

 今、この目に見える映像、この耳に聞こえる音声は、ビデオではない、

 間違いなく、俺の妻、実鈴みすずのSEXシーンだ。

 喘ぎ声が生生しい、私との行為よりもかなり声が大きい。




 * * * * *




 俺は 結城ゆうき れん 27歳 離婚調停が済んだばかりのバツイチ独身、子供無し。


 三年前に東京本社から此処の支社に移動の辞令、いわゆる杜の都だ。

 妻の実鈴は結婚を機に専業主婦と成ったので一緒に来てくれるとばかりと思い込んでいたが、実鈴は色々な理由を付けて一緒の転移を拒んだ。

 そしてやむなく単身赴任になった。

 そしてあの日、拒んだ理由が判った。

 俺も目出度い



 * * * * * 



 半年前にさかのぼ


 今日は実鈴の誕生日。

 朝起きて直ぐ〖誕生日おめでとう〗のlineをして、今度戻った時一緒にお祝いをしようと付け加えた。


 間もなく【ありがとう!楽しみにしています】と返事が来た




 そしてその日、午後から有給休暇を取りサプライズのつもりで花束とケーキを持って夕方には東京のマンションに帰宅した。



 玄関に入ると俺の靴ではない男の靴が有り不自然さを感じた。

 中に入ると、俺と実鈴だけの寝室からの音声に自分の耳を疑った。

 ダブルベッドで激しい絡み合いをしている様だ。

 実鈴の喘ぎ声の間に台詞も聞こえた。


 「うちのATMよりずっといいわ」


 ――俺はATMなのか――


 怒りが沸いた。


 たまらず、俺は寝室のドアを開けた。

 其処には、実鈴と見知らぬ男がベッドの上で同衾どうきんしている姿があった。


 まだ俺が寝室に入った事に気づかずに交尾を続けていた。

 俺は咄嗟とっさにスマホを出し、交尾対象物に向けてその醜い姿を証拠としてスマホに収めた。


 そして「何してるんだ!!」と俺の中で最大級の声を出した。


 醜い交尾は強制終了されて、男は何も言わず慌てて服を持って部屋から出て行き、まさしく典型的な間男の行動に見えた。


 その後実鈴は何か言葉を発していた様だが、俺は頭が真っ白になっていたので、どんな言い訳だったか全く記憶にない。


 暫く其の場に立ちすくんでいたが、程なく俺もその場から立ち去った。


 そして杜の都の家へと帰った。


 それから実鈴と会話することは永久に無かった。



 俺はショックで三日程会社を休んだ。


 当時は怒りも極大だったので、そのせいかどうか分からないけど冷静に物事が進められた。

 次の日、朝一で銀行の支店へ行き、東京に置いてある俺名義の通帳の類を、すべて凍結した。


 それから、少ない友達の中に弁護士の奴がいる事を思い出した。

 そいつに電話しようとスマホを見たら、実鈴からのlineや着信履歴が多数あったが、一切見ないで、lineはブロックして、電話は着信拒否に設定した。


 俺は、実鈴とはもう会うつもりは無かった。

 そして離婚の交渉、東京の賃貸マンションの解約、俺保有の家具などの処分等々、後の事はすべて、弁護士で友達の白井隆志に任せた。


 最初、白井は面倒くさがっていたが、大学時代に一度、白井が絶体絶命のピンチの時、俺が彼を救った事実をほのめかすと、渋々引き受けてくれた。



 大学時代、彼はもて過ぎて二股をかけて二人の女性と付き合っていたが、その中の1人の女性に二股がバレてしまった。

 白井はその女性と別れようとしたが、白井に対してストーカー行為を執拗にしてきた。

 そして、白井は俺に『助けてほしい』と泣きついて来た。

 やむなく引き受けた俺は、その女性と会って、ストーカーの違法性を説いて白井を諦めさせた。

 そしてその女性に対して前から好意を持っていた別の友人を紹介して難なくストーカー行為は修まった。

 



 第一弾の白井からの報告は一週間後に来た。


 実鈴は俺と結婚する前からセフレが二人いて其の中の一人と結婚する事も考えていたらしいが、結婚ともなると、三又かけていた中で、経済的に1番安定していた俺を選んだそうだ。


 俺は只のATMだったらしい。


 三又の事は俺も全く気が付いていなかったし、想定もしていなかった。

 思い起こせば、実鈴との夜の行為も拒まれることが多かったし、たまに交わっても実鈴は絶頂を迎える事は無かった様な気がする。




 実鈴と縁が切れるまで、4ヵ月かかった。

 まあ弁護士の仕事だったから割と早かった。

 向こうに離婚の原因があった事も早く進められた。


 その間一度だけ、実鈴の父親が俺を訪ねて来て代わりに詫びられて、やり直しのお願いをされたが、『割れた花瓶は接着剤で付けても水は漏れます』と言って丁寧にお断りした。 


 その前も、その後も直接本人からの詫びは無かった。


 慰謝料は別に貰うつもりはなかったが、白井が弁護士として忠実な仕事をしたので、白井に報酬を払っても、手元に少しは残った。




 大手建設会社の支社での仕事は、主に公官庁相手の工事請負準備のポストだ。工事の時期、規模によって激務の時期もあれば暇な時期もある。

 暇でもそれなりに仕事はあるので、平日は、仕事に専念していれば気が紛れていた。


 そして俺は、あの目撃事件のひと月後位から心の寂しさを埋める為に、酒と風俗に通い始めた。


 酒の方は今でも続いている、ほとんどが一人酒である。


 そして、風俗から出会い系に移るのにそんなに時間は掛からなかった。

 プロの女性の演技より、素人の女性の自然な感情を求めだしたのである。

『SEXがきっかけで、いい出会いが?』の、微かな希望も心の隅の方に有ったのかも知れない。


 殆んど20代の女性を選んで会っていた。

 勿論出会いが無い週もある。

 その大半が一度だけの割り切った付き合いだった。

 それには見ず知らずの人と言う事で、多少リスクも有る。


 だから、身分が判る名刺ケース、クレジットカード等が入った財布等は決して持って行かないし、仕事の話は一切しない。

 それでも、付き合ってみたいと思う意気投合した女性も何人かいた事もあった。

 しかしそれ以上は進まなかった。

 女性から見ても、こう云う系のサイトで会って、発展は考えられないのだと思う。



 絶望の時期は何となく時間が解決する様に思えた此の頃だったが、仕事にしても、それ以外にしても、毎日の生活は張り合いが無い日ばかりだった。


 そんな時に、一人の少女と出会った。




 ――比内香緒莉ひないかおり――




 この出会いが、――――まさかの展開になるとは――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る