第13話 結婚の相手はソニア⁉

 イザベラとソニアはステージの余韻に浸りながら毎日を過ごしていた。イザベラは相変わらずダイエットを続け、毎日の散歩は欠かさない。一週間が何ごともなく過ぎ同じように二週間が過ぎた。そんなある日の事だった。


 王宮からの使者が、二人の父ラムジー・カールトン男爵の元を訪れた。使者は折り入って話があると、カールトン男爵を王宮へ招いた。王宮へ個人的に呼ばれたことなど今までになく、何を言い渡されるのかと心配そうに出かけていった。


「悪い話じゃなければよいが」


 イザベラは心配していった。


「お父様、悪いことなどなさっていないのですから大丈夫です。ご安心ください」


「お前たち、私がなぜ呼ばれるのか、何か心当たりがあるのか?」


 ソニアが、もしや姉の事ではないのかと胸騒ぎがした。


「別にありませんが、最近劇場でよくお会いするので……」


 イザベラの眼が泳いでいる。


「私の事でかしら。もしかして、婚約してほしいとか……」


 ラムジーはあきれ顔で二人を見ている。


「お前たち、何を夢のようなことを行っておるのだ。私の娘たちにそんな話が来るわけがないだろう」


「そ、そうですよねえ、お父様」


「なんにせよ、王様の命令とあらば、行かなければなるまい」


 そそくさと、ラムジーは王宮へ向かった。歩いても行ける距離だったが、馬車に乗り従者を従えて出かけた。門兵に名前を名乗ると、お伺いしていますと言われ門が開かれ中へ通された。そこから車寄せへ回り、大きな宮殿の前で建物を見上げた。家とは比べようもない程の立派な建物の中にこれから入って行くのかと思うと、身がすくんでしまう。再び兵士に許可され門が開かれ、いよいよ建物の中へ入って行った。門だけでも、かなり重そうで大きい。開かれた門から中を覗くとホールがあり、小さな我が家がすっぽり入ってしまいそうなほどの広さだ。ラムジーはいよいよ緊張してきた。ぎゅっとこぶしを握り締めていると、手には汗が滲み出てきた。すると、侍従らしき人が近寄ってきた。


「こちらへいらしてください」


 ラムジーはまるで死刑執行を待つ、犯罪人になったような気分だった。どこへ連行されるのか、恐ろしさで縮こまってしまう。


「どちらですか?」


「私に着いてくれば分かります。ささ、緊張なさらず」


 無言で、その男の後をついていく。執事なのだろうが、ラムジーよりもはるかに良い身なりをしている。宮殿の中にいることが恥ずかしくなる。どこをどう歩いているのかすらもわからないほど廊下の幅も広く道のりは遠い。しかし、距離はあったのだが、気がついた時にはある部屋の前でその男は立ち止まった。


「こちらのお部屋で王様と、第二王子のフレデリック様がお待ちです」


 それを聞いたら、さらに膝ががくがくと震えだした。震えが収まるように、膝に手を置きしっかりこぶしを作って押さえつけた。


「緊張なさらないでください。こちらへお入りください」


 男の後に着いて入り、二人が座っているテーブルの前まで連れていかれた。椅子を引かれた場所で立ち止まり、深々と挨拶をした。


「この度は、お招きにあずかりましたラムジー・カールトンでございます」


「お待ちしていました。どうぞお座りください」


 言われてから、しずしずと腰かけた。


「突然のことで驚かれたでしょう。悪いお話ではないので、緊張なさらないでください」


「はい」


 椅子に前半分ぐらい尻を乗せて、視線を下に向けて話を聞いている。


「息子のフレデリックが劇場へよくオペラを見に行っていまして、お宅のお嬢様方とたびたびお会いしているようです。そこでですなあ、大変突然なのですが、フレデリックがお宅のお嬢様のうちのお一人と、婚約したいと言っているのです」


「えっ、家のような貧乏な男爵家の娘とですか……何番目の側室ですか?」


「いえいえ、まだ一度も結婚はしておりませんで、初めて好きになった女性で、ぜひお父様に婚約をお受けいただきたいと……」


「信じられません。家の娘たちのうちのどちらかだなど……」


「では、フレデリックの口から、気持ちをお聞きください」


 隣に座っていたフレデリック王子が話し始めた。さらりとした金髪が揺れ、緑色の瞳が輝いた。


「本当に突然の事ですが、妹さんのソニア様と婚約したいのですが、お父様からお伝えいただければと思います。私の真摯な気持ちを受け止めて、是非お嬢様に喜んでいただければと思います」


 王子から直々に結婚の申し込みをされているのだ。断ることはできないだろう。


「ソニア……ですね。イザベラではなく」


「はい、妹のソニア様です」


「かしこまりました。では、そのようにソニアに申し伝えます。見に余る幸せに、泣いて喜ぶことでしょう。急いで伝えます」


 王も、相好を崩している。フレデリック王子の意思を尊重しようということらしい。


「そうして頂けるとありがたい。婚約の日は追って知らせますので、ご準備しておいてください」


「有難き幸せにございます」


 ラムジーは、一刻も早くこの知らせを娘に知らせようとはやる気持ちを胸に長い廊下を引き返した。帰りは周囲の人に驚きと歓喜の気持ちを悟られないように、馬車に込み乗り自宅へ引き返した。

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