第24話 後5秒
***
いよいよ起動まであと5秒、大団円となるか?
***
ピ、ピ、ピ。
「最終破壊兵器の起動時間まで5秒です。只今より、ファイナルステージに入ります。各フロアのトビラはロックされます。停止させたい場合は緊急停止ボタンを押してください」
ピ、ピ、ピ。
「なんだよー! 何で止まらないんだ?」
「うわぁー!」
「うわぁぁーー!」
右チームも左チームも現場は大混乱に陥った。
――それはそうだ。ちゃんとタイミングまで合わせて停止ボタンを押したのに、カウントダウンが止まらない――
「落ち着け! まだ終わってないぞ。あと5秒もある!」
パニックになりかけた各チームは、係長の言葉で我に返った。
「係長ぅー。変なテンキーが操作パネルの押しボタンの横についているんですけどー?」
停止ボタンの横にいたメンバーが不思議そうな声で係長に聞いて来る。
「何だって! それを早く言え!」
係長のバイザー越しにも、停止ボタンの横にまるで付け足しの様なテンキーが付いているのが見える。
「まさかと思うけど――このテンキーもあなた達が今回の作業で付けた――なんて事ないよね?」
係長が電気工事のおじちゃんと兄ちゃんに急いで尋ねる。
「いやぁー、分かっちゃいましたか? テンキー取り付けるの苦手で結構苦労したんですよね。よく見ると微妙に曲がっているでしょう? 恥ずかしいからあまりジロジロ見ないで下さいね」
「えー!」
「うえー」
「おおー!」
右チームと左チーム、さらには28階の管理者フロアにいる全員が一斉に素っ頓狂な声を上げる。
「お願いだから、これ以上はどこも工事してないよね? 本当にこれが最後の最後の工事部分だよね?」
「はい! もうこれで最後です。神様に誓っても良いです」
「そんな物に誓ってもらわなくてもいいから! 本当に、本当に、本当にーっ、最後だね?」
「はい!」「最後です!」
電気工事のおじちゃんと兄ちゃんは、右と左で同時に返事をしてきた。
それを聞いて係長の頭の中で何かが閃いた!
「多分、テンキーに解除コードを入力するんだ。それから左右同時にボタンを押す!」
――そうか。核兵器の発射シーケンスをそっくり真似したつもりなんだ。誰だ? こんな馬鹿げたシナリオ考えた奴は? もう少し内容を見直した方がいいと思うけどな。
「係長!」
係長の後ろからオタクメンバーが叫んだ。
「総理大臣が使う予定の机の中にショボい茶封筒が入ってました。その中に紙切れが入ってます。紙の上端には『起動シーケンス用パスコード(マル秘)』って書いてあります! 全部で12桁の数字です。コレがそうじゃあ無いですか?」
「よく見つけた! この国の大統領レベルの人間が持っているというシナリオ通りだな!」
しかし、しょぼい茶封筒が悲しいなぁー。まだ正式運用前だからと言うことか? でも、運用前に既にあらかた壊しちまったがな、あはははは――。係長は自虐的な笑いを見せる。
ピ、ピ、ピ。
「最終破壊兵器の起動時間まで4秒です。只今より、ファイナルステージに入ります。各フロアのトビラはロックされます。停止させたい場合は緊急停止ボタンを押してください」
ピ、ピ、ピ。
「おお! いけない。こんな所で油を売っている訳には行かない!」
係長は超空間通信機のバイザー経由で右チームと左チームに声をかける。
「右チーム、左チーム。こちらで解除コードを見つけた! 総理大臣の机にあったから、まあ正しいだろうと思う。これでダメだったら、皆んなで潔く諦めよう――」
「はぁー」
「ほへぁー」
超空間通信機のバイザーの向こうでは、みんなのため息が聞こえて来る。
「いいか! 今から言う番号をテンキーで打ち込んでくれ。全部で12桁の数字だ!」
ピ、ピ、ピ。
「最終破壊兵器の起動時間まで3秒です。只今より、ファイナルステージに入ります。各フロアのトビラはロックされます。停止させたい場合は緊急停止ボタンを押してください」
ピ、ピ、ピ。
「三人いれば
係長は番号の間違えを防ぐために、通話表(フォネティックコード)に従って丁寧に伝え始める。
「係長ぅー、時間無いんだからチャッチャと言ってくださいよ!」
「あ、ゴメン、ゴメン! では言い直すぞー」
超空間通信機のバイザーの向こうではメンバーの苛立ちが手に取るようにわかる。
「サン、イチ、ヨン、イチ、ゴ、キュウ、二、ロク、ゴ、サン、――」
――
ピ、ピ、ピ。
「最終破壊兵器の起動時間まで2秒です。只今より、ファイナルステージに入ります。各フロアのトビラはロックされます。停止させたい場合は緊急停止ボタンを押してください」
ピ、ピ、ピ。
「係長ー! テンキー打ち終わりましたー。テンキー横のランプが黄色から緑色に変わりましたぁあああー!」
右チームと左チームから、ほぼ同時に連絡が来た。
「よーし。それではもう一回右と左の停止ボタンを同時に押すぞ! カウントダウンするからな!」
係長はそう言って、深呼吸してからカウントダウンを始める――喉が異様に乾いているのを感じた。
「さん! にっ! いっち! ゼロぉおおおー!」
「ポチ!」
「ポチ!」
――
――
――
リンゴーン!
リンゴーン!
リンゴーン!
「緊急停止ボタンが押されました。最終破壊兵器の起動シーケンスは停止されました」
まるで教会の鐘の音の様に荘厳なベルの音が鳴り響く中、無機質な男性の声がこだまする。
――
「やったー!」
「バンザーイ!」
「バンザーイ!!」
「バンザーイ!!!」
「ウオー!!!」
「きゃーっ!」
右チームも左チームもメンバー皆がお互いに抱き合って喜んでいる。
28階の管理者フロアーでも、係長とオタクメンバー、そして掃除のおばちゃんの三人が手を取り合って喜んでいた。
*** ***
その頃――各フロアで起きている大混乱をよそに17階で掃除をしていたおばちゃんが、机の上に置いてある不思議なボタンを見つけた。
「まあ! 何かしらこのボタン? 何の説明も書いてないわ。でも、汚れているから綺麗にしなきゃあ」
ちゃんとボタンを拭くために、雑巾をボタンの上に置いて――
キュッ
キュッ
キュッ
カチ!
「あら? なんか、ボタンが下がったわ。どうしたのかしら?」
*** ***
その頃、全メンバーは地下27階の食堂に集まっていた。停止プロジェクト完遂のお祝いをするためだ。
「いやあー、本当に大変でしたねえー」
「でも、本当に良かったです、無事に止まって」
「お願いだから、もう変な工事はしないでくださいね」
ワイワイ、ガヤガヤ。
ワイワイ、ガヤガヤ。
ワイワイ、ガヤガヤ。
「しかし、このフロアの食品はみんな高級だよなあ。レトルト食品でこんなに美味しいのは食べたことないっす」
メンバーは、VIP用のレトルト食材を使って疲れを忘れて飲み食いをしていた。
――そこへ、聞きなれた音声が流れて来た――
ピ、ピ、ピ。
「最終破壊兵器の起動ボタンが押されました。最終破壊兵器の起動シーケンスを途中から再開します。起動時間まで、後10秒です」
ピ、ピ、ピ。
「なんだぁぁぁー? 誰かがまたボタンを押したぞー!」
「そうか! 各フロアの目立ところに起動ボタンを設置したんだよな。『触るなボタン』とかの張り紙をしておけば良かったか!」
「でも、何で再起動じゃなくて、途中からの継続なんですかー?」
「みんなー、急げー! また停止ボタンを押すんだー!」
*** *** ***
ここからエンドロールが始まる。そして、陽気なエンディングの音楽も流れてくる。
デデン♫、デデン♫、デデーン♫、デン♫
右チームと左チームがエレベーターに乗って最下層に降りて、停止ボタンを押しに走り回る様子がエンドロールに重なる。
*** ここからエンドロール ***
制作……
『バイトのおばちゃん』製作委員会
出演者……
おばちゃん
起動ボタンを押したおばちゃん、
ハルさん、ウメさん、地下28階のトメさん
最後に起動ボタンを押したおばちゃん
エレベータに乗れなかったおじちゃん
電気工事のおじちゃん、お兄ちゃん
停止ボタンを押すための緊急対策チーム
課長、係長、主任、
リーダ、オタクメンバー、その他メンバー
役員、会長
バニーのお姉さん
ゴスロリのお姉さん
14階のOLさん
コンビニの店長
バイトの女子大生
警備センターの職員
センター長、副長
建築会社の社員
工事主任、事務所長
研究所の職員
副所長、主任研究員、技官、食堂のおばちゃん
土木作業員
兄貴、相棒、事務のおねえちゃん、研究者風の男
協賛各社(者) (順不同、敬称略)……
――
スペシャル・サンクス……
*日本全国の掃除のおばちゃん達、毎日ご苦労様です。
著作、制作……
ぬまちゃん(C)
最後に大きな文字で
***
完
***
―――
ここで館内の灯りが一斉に灯る。
「本日はご鑑賞頂きありがとうございました。お忘れ物が無いよう、お気をつけてお帰り下さい」
―――
読者の皆様、ここまで読んで頂き、まことにありがとうございました。
また、次回の作品をご期待ください。
――― 終わり ―――
バイトのおばちゃんが押したのは、最終破壊兵器の起動ボタン ぬまちゃん @numachan
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