第17話誘拐17

 部屋に戻った俺と弁慶は、山田さんと色々と打ち合わせした。

 その中には、誘拐された幸次君が無事かどうかを問題にした。

 山田さんは察しがいいのだろう。

 直ぐに俺の意図を感じてくれて、五億円を貸すのを止めると言ってくれた。

 一瞬の掌返しだ。


「山田さん!

 さっきと言っている事が全然違うじゃないですか!」


「だがね、刑事さん。

 犯人がこれほど受け渡し場所を変えると言うのは、幸次君を殺してしまっているからではないのか?

 殺されてしまっているのなら、五億もの大金を腐れ外道に渡すわけにはいかないのですよ」


 山田さんは演技が上手い。

 何より疑わしい刑事が察しが悪い。

 山田さんが気がついたくらいだから、刑事も気がつくと思ったが、思っている以上の馬鹿のようだ。


「僕も同じ気持ちですよ。

 幸次君が無事に帰って来るのなら、五億円が奪われても仕方がないと思っていました。

 でも今日の様子を見ると、幸次君の無事が信じられなくなった。

 これでは五億を捨てる気にならない」


 俺も芝居をする。


「あんたまでそんな事を言うのか!

 見損なったぞ!」


 真面目な刑事さんが激昂するが、そんな事を気にしてられない。

 俺達に必要なのは、幸次君の身の安全だ。

 そして今も無事でいるという証拠だ。


「先輩。

 ここはこの人達の言う通りにしましょう。

 この人達の協力なしに、身代金を揃える事はできないのです。

 それに、この人達の言う通り、幸次君の無事を確認するのは大切な事です」


「う~む」


 疑わし刑事が俺達の話に賛同してくれた。

 少なくともこの刑事は、幸次君が無事だと思っているのだろう。

 最初の計画段階では、幸次君を殺す予定ではないのだろう。

 役割分担している誘拐役が殺してしまっていない限りだが。


 この後は刑事さんと山田さんが犯人と粘り強く交渉してくれた。

 何と言っても経験豊富な刑事さんだ。

 山田さんも人違いで誘拐したのを明かしてくれた。

 もっとも、犯人の中に刑事がいるのだから、先刻承知だっただろう。


 だがそう考えると、山田さんが身代金を建て替えてくれたのはよかったのか悪かったのか?

 もし建て替えなければ、幸次君は無事に解放されていなのだろうか?

 それとも役に立たないと殺されていたのだろうか?


 そんな事を考えているうちに、疑わしい刑事がトイレと言って席を離れた。

 その直ぐ後で、幸次君の動画付きで直接会話をさせてくれるという話になった。

 犯人達にとっても、五億円と考えていた身代金が十億円になったのは想定外で、冷静にリスクを考えられないようだ。

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