第36話ダンスィ1

 敦史君の態度が劇的に変わったのは、教団に強制捜査が入ってからだった。

 防腐処理がされた指導者の遺体が発見され、息子が死体遺棄容疑で逮捕された。


 息子は、

「指導者は眠っているだけで死んでいない!」

「火葬するのは殺人だ!」

「信教に自由に反する!」

 などと抗弁していると、手のひらを返したマス塵が連日報道している。


 マス塵とは現金なモノである。

 旗色が悪くなると、昨日までの主義主張を簡単に翻し、報道の自由を喚き散らし、正義も味方を気取って自分達の旧悪を隠蔽しようとする。

 だがもう手遅れだ。

 地方テレビ局の買収は終わったし、主要テレビ局の株は売り浴びせを続けているので、最安値を更新し続けている。


 だがそんな事はどうでもいい。

 問題は敦史君に事だ。

 心から安心できたのだろう。

 今迄の警戒心丸出しの態度が、小学生らしい態度に変わった。

 大繁盛中の中華店を切り盛りしているお母さんには遠慮しているが、俺達には遠慮会釈なく絡んでくる。


 正直言えば少々鬱陶しい。

 だが同時に、子供らしい悪戯ができるようになったのを見ると、安堵とうれしさに涙が流れそうになる。


「おじさん、臭いよ。

 おならしたんでしょう!」


 敦史君が最近お気に入りの絡み方をしてくる。

 俺は気にしていないが、弁慶が加齢臭を気にしているのを知って、臭いネタで絡むようになったのだ。


 弁慶がピクリと反応した。

 弁慶はわざと相手をしてくれている。

 実戦経験の豊富な弁慶達は、絶対に香水をつけない。

 加齢臭が漂わないように、食事にも気を付けている。

 だから風呂に入れないような状態が続かない限り、無臭なのだ。


 だが、敦史君が俺達にだけ心を開いてくれたのがうれしくて、怒った振り、気にしている振りをしてくれるのだ。

 これは剣鬼と剛龍も同じだ。

 敦史君に気にしてい振りをしたり、気にしていない振りをしたりする。

 その態度が、敦史君が更に絡めるようにする誘い水なのだ。


 敦史君達は、まだ心の奥底に、不安と恐怖を抱えている。

 御世話してくれているお母さん一家の対しては遠慮している。

 今迄遠慮なく入っていた中華店に入らなくなった。

 店を汚す事を極端に恐れ遠慮している。

 臭いとかうんことか、汚い言葉をお母さん一家には口にしないそうだ。


 店の評判を悪くすることを恐れているのだろう。

 本当なら、汚い言葉を言いたい年頃なのだ。

 家族とも言うべきお母さん一家に遠慮なく言えるようになった方がいい。

 だが、嫌われ虐められることを極端に恐れているのだろう。

 丁度よい距離間の俺達に絡むのだ。


 いいぞ。

 遠慮せずどんどん絡んでこい!

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