第37話ダンスィ2

「おじさん!

 開けて!」


 敦史君が明るくなって一ケ月、探偵事務所にやってくるようになった。

 探偵事務所の仕事増えて、人員を増した事もあるが、それ以上の問題があった。

 教団との暗闘である。

 隠蔽されていた指導者の遺体を表に出し、息子を逮捕させたことで、激烈な恨みを買ったのだ。


 表立って動いたのは警察だ。

 だが、裏で俺が動いていたことは、未だに官庁内に大きな勢力を持つ教団の知る所となっていた。

 当然報復を考えている。

 だから護衛戦力を増やして護り易いビルに移動したのだ。


 ビルの中でも、狙撃される恐れの少ない部屋を俺が使うことになる。

 爆破の恐れを考えて、上下の部屋も借りるのが定石だが、俺はビルごと買収した。

 マス塵を叩くのが目的の株式売買だったが、同時に莫大な利益も上げていた。

 一兆とは言わないが、それに近い利益を上げる事ができた。

 父王陛下と母の応援があっての話ではあるが、多少は誇っていいと思う。


 そんな理由で購入したビルに移動した探偵社は、今迄以上に中華屋に近い。

 敦史君と幸次君が通う小学校と中華屋の間で、中華屋に近いビル。

 小規模住居型児童養育事業登録しているお母さん達の家にも近くなった。

 敦史君と幸次君は、家に帰る前に探偵事務所に寄り、一言二言言葉を交わしてから家に帰る。


「直ぐに開けてくれよ!

 ばぁぁか!

 う〇こ! 

 ち〇こ!」


 家の探偵事務所に若い女性事務員が入ってから、敦史君の言葉が更に汚くなった。

 ダンスィと表現される小学生男子特有の現象のようだ。

 女性事務員が増えたのは、表向きの探偵家業が盛況なためだ。

 浮気調査に女性探偵は必要不可欠だった。

 まあ、男ばかりだと、事務所がむさ苦しいと言う切実な現実もあった。


「剣鬼。

 二人連れて送ってやってくれ。

 設定としては狙撃犯に狙われている要人警護だ。

 諸般の事情により三人しか戦力を使えない前提だ」


「なにそれ!

 カッコイイ!

 俺が護られるの?

 俺王子様!」


 敦史君が喜んでいる。

 幸次君はキョトンとしている。

 敦史君について行けないようだ。

 だが問題は二人の安全確保なのだ。


 今の状況では、教団も二人だけを狙うのは危険すぎた。

 二人を襲って死傷させたら、世論が教団を叩き潰すだろう。

 だが、浮気調査などの探偵業のいざこざで恨んだ人間が、俺達を襲った時に偶然二人が巻き込まれたと言う状況を作れば、恨み辛みのある俺達と敦史君達を始末する事が可能だ。


 本当に教団を危険に巻き込まずに恨みを晴らせるかどうかではない。

 息子を代表とした、教団中央幹部がそう勘違いした時点で危険なのだ。

 だから護衛が必要なのだ。

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