第35話妖狸町中華13

 証拠はない。

 だが、お母さん達が何かしたのだと思う。

 催眠術なのか、魔術なのか、妖術なのか分からない。

 だが、何らかの力を使って、教団員を自殺に追い込んだのは間違いない。

 あの時の眼はそう言う眼だったのだろう。


 俺はその事を非難などしない。

 俺達が助けなければ、敦史君達は末端教団員の母親に殺されていた。

 せっかく助けた敦史君達を、教団員達は追い込んで殺そうとした。

 一人一人は背教徒を少し懲らしめただけのつもりだろう。

 だが、追い込まれていた敦史君達には、自殺を選ぶほどの苦痛だっただろう。


 だから、俺は自殺させられた教団員に同情などしない。

 むしろざまあみろと思っている。

 しかし、このまま見て見ぬ振りをした方がいいか悩む。

 率直にお母さんに聞くべきなのか?

 迂闊に聞くと、俺まで自殺に追い込まれるかもしれない。


「王子。

 世の中には、人知の及ばない事があります。

 そんなモノに出会ったら、自分が卑小な事を素直に認めるのです。

 プライドに拘ると、夢を叶える事も、大切な事を成し遂げる事も無く、犬死することになります」


 思い悩んでいると、弁慶がアドバイスをくれた。

 弁慶もお母さん達の事を気がついていたのだ。

 当然と言えば当然だ。

 俺のような未熟者が気が付くのだ、命懸けの戦場で、常に敵や周囲の気配に注意を払っていた弁慶が、気がつかないはずがないのだ。


「弁慶も気がついていたのだな。

 俺のような未熟者が気が付いたのだから、当然だな」


「私だけではありません。

 剣鬼も剛龍も気づいています。

 ですが知らぬ振りをしているのです。

 私達は、あの者達と敵対している訳でもなければ、殺したい訳でもありません。

 むしろ王子は仲良くやっていきたいのでしょ?

 だったら彼らが秘密にしたい事を嗅ぎ回る必要などありません」


 弁慶の言う通りだ。

 俺は四角四面過ぎるのだ。

 俺はあの店の料理が好きで、雰囲気も気に行っている。

 敦史君達を助ける心意気も尊敬している。

 できることなら、ずっと仲良く付き合ってきたいと思っている。


 だったらお母さん達が秘密にしている事を探るべきじゃない。

 俺の安全を第一に考えてくれている弁慶達が、何の警戒もしていないのだ。

 弁慶達がお母さん達を危険だと思っていないのなら、俺も気を抜いて楽に付き合えばいいのだ。


「だったら今から食事に行こう。

 心配がなくなったら急に腹が空いた」


「でしたら今日は、御礼に高い料理を奢ってください」


「ああ、任せろ。

 お母さん達の店はリーズナブルだから、喰いたいだけ喰ってくれていいぞ」

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