第30話妖狸町中華8

 俺から関口刑事に直接連絡した。

 普通は地元の警察署に連絡するのだが、それでは情報が洩れるかもしれない。

 最初はマス塵を疑った。

 マス塵も鼻薬を嗅がしている刑事や検察官がいるはずだ。

 敦史君達を付け回すなら、事前に情報提供の警察官を作っているかもしれない。


 そこに剣鬼がアドバイスをくれたのだ。

 敦史君達を恨んでいるのはマス塵だけではないと。

 確かにその通りだった。

 最初の虐待事件で、教団と政党を敵に回しているのだ。

 今も陰から中華店をSNSで批判し叩いている。


 彼らなら、恥知らずに逆恨みして平気でストーカーするだろう。

 彼らは全国的な大組織だ。

 しかも中央官庁に隠然たる勢力を持っている。

 官庁内に内密で教団員だけの独自官庁組織を創設していると言う噂まである。

 与党第二党として公式な力もある。


 慌ててもう一度関口刑事に連絡を入れた。

 本部にいる教団員に気を付けて欲しいと伝えたのだ。

 関口刑事も驚きながらも納得してくれていた。

 彼自身、警察組織内で隠然たる勢力を持つ教団を警戒していたそうだ。

 だがこれでとても難しくなった。


 最初は確実に敵を叩く為に、俺は動かないつもりだった。

 内心は直ぐに敦史君達の所に駆け付けたかった。

 幼い光男君と花子ちゃんの側にいてあげたかった。

 だがそれでは、敵に感づかれると思い、行かないつもりだったのだ。

 しかし、教団や政党が動いているとなれば別だ。


 営利を追求するマス塵なら、動員できる人員は限られる。

 警察内で警戒しなければいけない人間も少数だ。

 だが相手が教団と政党となると、損得抜きで大人数を投入可能だ。

 警察内で警戒する人間も桁違いに多くなる。

 こうなれば、敵を摘発するより敦史君達を護る事を優先すべきかもしれない。


「王子。

 心配なのは分かりますが、当初の作戦を無暗に変えてはいけません。

 臨機応変な対応が必要な時もありますが、今は違います。

 敵は敦史君達の命まで狙っていません。

 敵に気付かれずに、後で作戦を成功させることも可能です」


 確かに剣鬼の言う通りだ。

 当初の作戦が成功する見込みもある。

 だが、教団が交代で大人数を導入していたら、敵を立件できないかもしれない。

 ストーカー行為をする者が個人ではなく、別人が入れ替わり立ち代わり行っていたら、犯罪を立証できない。


「王子。

 証拠が弱く、表で裁けないのなら、裏で制裁を加えればいいのです。

 指導者が死んだのを隠して、聖人認定させたいようですが、息子がライバルを排除して権力を握ろうとしています。

 そいつを弾いてやればいいのです」

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