第29話妖狸町中華7

 お母さん所の町中華は、ちょっと時間がかかるようになった。

 雰囲気も少し変わってしまった。

 分家して各地で中華店を開業している弟妹の子供が、助っ人に来ているから、料理を作る時間は少し遅いだけだが、いつもの小上がりではなく、倉庫として使っていた二階で食べるからだ。


 だがその雰囲気の違いが大きい。

 料理自体は、朝の大将、昼の親父さん、夜の若で微妙に違う。

 三食食べに来ている俺達には、その微妙な違いは関係ない。

 だが常連客の中には、その微妙な違いが大きな差異になるようだ。

 特にいつもカウンターで食べていた人は、二階で食べるのは違和感が大きかったようだ。


 浮ついた一見客は、助っ人が主になって料理を作っている。

 大将の孫で親父さんの甥っ子に当たる者達だ。 

 無法者を追い払った英二君もその一人だ。

 なかなかの好青年で、今回の件を外に出て修行するいい機会だと言っていた。


 幸次君誘拐事件から二カ月。

 無法者事件から一ケ月。

 一向に客足が衰えない。

 一見客が減らない分、常連客が僅かに減ってきているそうだ。

 一階と二階では居心地が違うと言うのが理解できるだけに、大きな諦めと僅かな落胆がある。


 だがそれは、お母さん達が一番感じている事だろう。

 もうしばらく様子を見て、厨房とホールの体制を変えると言っていた。

 創業当初のように、正式な見習いや中見習いを雇い、恒常的に一階二階が満員でも回せる人員にするそうだ。


 とても忙しいのに、お母さんが二階に留まって世話話をする。

 俺は何かあるとピンときた。

 当然それは自分達の事ではない。

 お母さん達が自分達の事で弱音を吐く事などない。

 敦史君達の事を相談したいのだと分かった。


「お母さん。

 敦史君達に何かあったんですね」


「そうなのよ。

 私達の事を気にして、自分達だけの心に留めているようなんだけど、どうも何か心配事があるようなのよ」


 直ぐにまたピンときた。

 嫌がらせにストーカーされているのだ。

 直接話をしたりすれば、また俺達に叩かれる。

 場合によったら国連まで出てきて叩かれる。

 倒産の可能性すらある。


 だがら姿は現さない。

 でも、敦史君達や幸次君に恐怖を感じるようにする。

 それでなくても虐待の痛みと不安が身体に沁みついているのだ。

 誘拐の恐怖が心に刻みつけられているのだ。

 そんな子供達に不安を感じさせるなんて、絶対に許さない!


「またマス塵に付け回しているのかもしれませんね。

 警察に連絡して、調べてもらいましょう」


「大丈夫かね?

 本気で調べてくれるかしら?」


「前回と前々回の件があります。

 個人的なつながりもあります。

 内々に動いてくれるでしょう。

 敦史君達には、警察に動いてもらっているから、何も心配いらないと伝えてください」


「分かったよ。

 ありがとよ」

 

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