第26話妖狸町中華4

「「お母さん、親父さん、ただいま!」」


「「「おかえりなさい」」」


「おう!

 お帰り!」


 勝手口から店に入って直ぐに、敦史君と幸次君が小学校から帰って来た。

 マス塵の邪魔が無くなったので、二人とも堂々と店に来る事ができる。

 お母さんと光男君と花子ちゃんが元気に迎えている。

 親父さんもうれしそうだ。

 俺も含めた常連客も顔が緩んでいる。


 マス塵騒動以降、二時間以上行列が並ぶようになってしまった。

 だが以前からの常連客は別扱いだ。

 子供達と同じように勝手口から入り、今迄使っていなかった二階で食べるのだ。

 お母さんもこんな繁盛は一時的なモノだと考えていて、後々の事を考えて、昔からのお客さんを大切にしているのだ。


 まあ安くて美味くて早い大衆町中華屋さんだから、繁盛するのが当然だ。

 だが、遠くから電車賃を使って来る店ではない。

 店の方も、年に一度二度来るような客を経営のあてにはできない。

 店が大切にすべきなのは、毎日食べに来てくれるお客さん。

 週に一度や二度は来てくれるお客さんなのだ。


 今行列を作っている人達は、一度来てSNSに投稿すれば満足してしまう。

 そんなお客さんに振り回されていては、長く店を続ける事などできない。

 大切なのは地元の根差した飲食店である事。

 大将と女将さんは、祖先からそうやって店を維持してきたのだ。

 これからもそのやり方を変えることはないだろう。


「おい!

 どうなっているんだ!

 後から来た客が勝手口から入っているじゃないか!

 この店は客を蔑ろにするのか!」


 普段から人様に迷惑をかけるような人間が喚いている。

 店には客を選ぶ権利がある。

 だからこそ予約制や一見さんお断りという事が成り立つのだ。

 この店は、今迄からの地元常連を二階でもてなし、新規のお客さんを一階でもてなしている。


「どけこら!

 俺が文句言ってやる。

 おら!

 どけこら!」


 大人しく順番を待っている人達を押しのけているようだ。

 脅し付けて、自分達こそ順番を守らないつもりのようだ。

 このままでは敦史君達が嫌な思いをするかもしれない。

 ちょっと教育してやろう。

 

「行くぞ」


「大丈夫だよ。

 丁度英二が来ているから、あの子に話をさせるよ」


 英二さんと言う人に会うのは初めてだ。

 恐らく忙しいから手伝いを呼んだのだろう。

 親父さんの子供達は、夜の営業で全員と会ったことがある。

 地域の知り合いか、甥っ子あたりだろう。

 荒事でケガでもしたら、料理が作れなくなってしまう。


「分かった。

 でも心配だから、見守るくらいはさせてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る