王子様探偵と妖狸町中華とダンスィ
克全
第1話誘拐1
俺はこの中華店が大好きだ。
近頃流行りの一つの料理に特化した専門店でもなければ、大衆的なチェーン店でもない。
まして洗練された老舗の高級店でもない。
だが、長年その街に溶け込んだ中華店には、他の何物にも代えがたい魅力がある。
「お母さん、中華そばを頼む」
「俺も同じで、チャーハンも付けてくれ。
半チャンではなく一人前づつで頼む」
「俺も中華そばとチャーハンだ」
「俺も同じだ」
「あいよ。
中華そば四丁。
チャーハン三丁」
「おう!」
長年夫婦が築いてきた阿吽の呼吸で、俺達四人の注文をさばいてくれる。
他の中華店なら中国語で注文を厨房に通すと聞くが、この店は日本語で通す。
以前理由を聞いたら、万が一注文を間違っていても、日本語なら客が教えてくれるっと、お母さんが豪快に笑っていた。
そんなお母さんの豪快な笑顔が、姿形は全く違うが、国にいる母親を思い出させてくれる。
少し郷愁を感じさせるが、独り立ちしたくて生まれ育った国を離れ、母の母国にやってきたのだから、そんな気持ちになるのは恥ずかしい事だ。
護衛と言うか目付け役と言うか、父上が俺に付けた者達にそんな感情を読まれるのは恥ずかしいので、できるだけ表情を変えないように気合を入れながら、見慣れた店の様子に眼をやってみる。
油を大量に使っているとは思えないくらい磨き上げられた厨房が、お母さんとお父さんの店に対する誇りと愛情をヒシヒシと感じさせる。
それは二〇人ほどの客が入るカウンターと、五卓ある小上がりの座敷も同じだ。
長年使いって古びてはいるものの、塵一つないく掃除されている。
俺達が座っているのは奥の小上がりで、狙撃を心配する弁慶が空いてる限りそこを使いたがる。
この国で狙撃される心配などないのだが、実戦経験のある弁慶達は常に警戒を怠らない。
護衛の三人は皆歴戦の勇士だ。
三人とも狙撃の名手だが、弁慶が僅かに頭一つ抜けている。
その弁慶が強く言い、残る剣鬼と剛龍が同意すれば、俺に反対はできない。
王子とは言っても護られる立場では発言権など無いに等しい。
「熱いからね」
お母さんが熱々の中華そばを出してくれる。
俺が中華そばだけ頼んだから、中華そばから先に出してくれたのだろう。
鶏ガラを基本に、他の料理に使った残り野菜と鰹節・煮干しなどで味を整えた熱々のスープが美味い!
「おばちゃん助けて!
幸次が大変なんだ!」
麺をすすろうとした時に、見たことのある子供が店に飛び込んできた。
義父と実母に虐待されていると近所で評判の男の子だった。
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