第2話誘拐2

 虐待児がお母さんに話すのを聞いていると、どうやら弟が誘拐されたようだ。

 まあ、日本の警察は優秀だと聞くし、無事に探し出してくれるだろう。

 しかし、虐待されているような貧乏な家の子を誘拐してどうする心算だ?


「ちょっと王子。

 あんた探偵なんだろ。

 探し出しておやりよ」


 お母さんも無茶を言う。

 俺は金に不自由はしていない。

 遊んで暮らせる身分だ。

 だが表向きは私立探偵だ。

 そしてできる事なら、私立探偵として生計を立てたいと思っている。


「待ってくれ、お母さん。

 俺だって生活があるんだ。

 何の報酬も貰えない事に時間を使うわけにはいかないんだ。

 それに今手掛けている依頼もあるんだ」


「今手掛けている事件と言っても、浮気調査でしょ。

 それは他の探偵社に外注すればいいじゃない。

 誘拐事件を解決したら、名前があがって有名になるわよ。

 そうしたら依頼も増えるし、単価も高くなるんじゃないの」


 お母さんは好き勝手言ってくれるけど、そうは問屋がおろさない。

 お母さんは王子を仇名だと思っているが、俺は本当の王子だ。

 事件に首を突っ込むと色々問題がある。

 弁慶達も表向きは探偵社の人間だが、本当は外交官だ。

 警察と接触して調べられるのは面倒なのだ。


「いや、それは駄目だよ。

 一旦受けた仕事を外注なんかしたら、信頼を失ってしまう。

 それに単価を高くしてしまったら、依頼が減ってしまう。

 テレビドラマや小説と違って、探偵なんて浮気調査や結婚前の素行調査が大半なんだよ」


「しかたないねぇ。

 せっかく名を売るチャンスなのに。

 名前が売れたら、テレビ出演でお金が入るんじゃないの。

 王子は男前だし、一度テレビにさえ出れたら、スターになれるんじゃないの?」


 またお母さんは馬鹿な事を言う。

 確かに自分で言うのは何だが、男前だと思う。

 でもそれは当然だろう。

 代々の国王が国内有数の美人を妻に迎えているのだから、子供が美形になって当然なのだ。


 本当の美形王子がタレントになれば、外人や二世がチヤホヤされる日本の腐ったテレビ業界なら、瞬く間にスターになれるだろう。

 だが俺はそんな外見で金儲けしようとは思わない。

 そんな事をしなくても、俺個人の油田が毎日大金を産み出してくれている。

 母上仕込みの株式投資でも金儲けできている。


「浮ついたタレント業に興味などないよ。

 俺は地道に探偵業をやりたいんだよ」


「おじさん。

 お金は一生かかっても働いて返す。

 だから弟を助けてくれ」


 ずっと黙って聞いていた、虐待されていると言う噂の子が真顔で話しかけてきた。

 こんな目で御願いされたら、適当な返事をするわけにはいかない。

 真剣に話さないといけないな。

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