第3話誘拐3

「坊や。

 名前は何て言うんだい」


 俺は膝をおって視線を子供同じにする。

 視線を同じにして、対等の立場で話をするのだ。


「敦史。

 佐藤敦史です」


 視線が真剣だ。

 涙と嗚咽を我慢しているが、自然と涙が流れしゃくりあげるように嗚咽している。


「なあ、敦史君。

 日本の警察は優秀だ。

 俺達のようなしがない私立探偵がしゃしゃり出るよりは、警察に任せたほうが、弟を確実に助けてくれる」


「嘘だ。

 そんなの嘘っぱちだ!」


 真剣目に増悪が籠っている。

 単なる思い込みで警察を批判している訳ではないようだ。

 何かあったのだろう。

 その理由を聞かなければ、返事のしようがない。


「何が嘘なんだい。

 警察に何かされたのかい?」


「何かされたんじゃないよ。

 何もしてくれなかったんだ!

 先生に話しても、役所の人に助けてと言っても、警察の人に頼んでも、誰も助けてくれなかった!

 その度におじさんや母さんに殴られただけだ!」


 確かに、そんな経験をしていたら、警察を信用できないだろうな。

 

「何てこった。

 警察なんかに任せておけるか!

 王子!

 お金は私が払うよ!

 助けてやんな」


 お父さんも無茶を言う。

 誘拐事件を、たった四人しかいない私立探偵社が解決できるはずないでしょう。

 でも、お父さんの言いたいことも分かる。

 そんなお父さんの心意気は大好きだ。

 国の母上から叩き込まれた漢気を出す時だろう。


 だが、できる事とできない事ははっきり言っておかなければならない。

 俺にできる事など限られている。

 日本の警察に任せる所は任せて、警察ができない所を補完すべきだ。

 警察官も人間だ。

 悪党もいれば善人もいる。


「この子を虐待から助けてあげる事はできる。

 だけど誘拐事件は別だ。

 たった四人で、誘拐された子供を助けるなんて無理な話だ。

 そんなのはおとぎ話だ。

 俺達にできるのは、誘拐事件を利用して、この子を親から助ける事だけだ」


「それでいい。

 警察も児童養護施設も学校も信用できねえ。

 王子が助けてやんな。

 もちろん俺も手を貸す。

 金も出す」


「光男と花子も助けてくれる?!」


「弟と妹かい?」


「うん。

 今日も殴られてた。

 かばったら俺が殴られた。

 でも俺は学校に行けるし、ここにも来られる。

 光男と花子は逃げられない」


 これは危険だ。

 虐待がエスカレートしている可能性がある。

 学校に行っている敦史には加減をして、弟や妹には加減していない可能性がある。

 最悪の場合、幸次と言う子を虐待死させたのを隠蔽するために、誘拐事件をでっちあげている可能性もある。


「分かった。

 まずは敦史君の家に行こう。

 そしてお母さんとおじさんに話をしよう。

 誘拐事件を警察に届けていればいいけど、届けていない可能性もある」

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