第16話誘拐16

 時間が刻々と過ぎていく。

 自分の子供が誘拐されている訳ではないので、山田さんはどっしりと構えている。

 だからこそ俺とよもやま話ができるのだろう。

 不謹慎と言えば不謹慎な話だが、俺としてもできるだけ情報が欲しい。

 大使館を通じて集めてもらっているが、生の情報に勝るものはない。


(王子。

 挙動不審の刑事がいます)


 弁慶がおかしな話をする。

 確かにさっきから俺の方をチラチラうかがう刑事がいる。

 いや、俺と言うよりも五億円の入ったジュラルミンケースをうかがっている。

 弁慶の言いたいことはなんとなくわかるが、優秀と言われる日本の警察にそんな奴がいるのだろうか?


「トイレを貸してください」


「俺も貸してください」


 俺と弁慶は一旦その場を離れて小声で打ち合わせする事にした。


(本気でそう思っているのか?)


(命惜しさに、今迄威勢よく掲げていたイデオロギーを捨てる者は多いのです。

 また、金のためなら味方や仲間を裏切る者も掃いて捨てるほどいます。

 それは日本であろうと戦場であろうと変わりありません)


 なるほどそういう事か。

 それで成功の見込みが低い営利誘拐をやったのだな。

 捜査逮捕するはずの警察の中に味方がいれば、隙を突いて身代金を手に入れる事が可能だ。


(一番成功の見込みのある方法は何だ?)


(私がこの誘拐事件を仕組んだのなら、散々受け渡し場所を変更して、最後にこの家に五億円を戻します。

 そこを仲間が襲撃して五億円を奪います。

 場合によれば、あの刑事が直接手を下す可能性もあります)


(俺達を殺すと言うのか?)


(自分の正体が露見しない状況を作る事ができればです。

 警察の警備状況は全部把握できるのです。

 隙ができるまで何時までも引き延ばせばいい事です)


 確かに相手の練度によったら危険だな。

 ただのやくざ者なら、弁慶達が簡単に撃退してくれる。

 だが傭兵や軍人崩れの場合は危険だ。

 幸次君が生きているのなら、危険を冒してでも助けるが……


(幸次君が殺されている場合はどうする?)


(それはこちらから揺さぶりをかけましょう。

 生きている証拠に声を聞かせろとか、動画を見せろと言えばいいのです)


’(なるほど。

 確かに一旦身代金受け渡しが失敗したんだ。

 仕切り直しに生きている証拠を見せろと言うのはおかしい話ではないな)


(はい。

 それに今日は思いがけず我々が加わりました。

 仲間が襲撃するにも、あの男が奇襲をかけるにも、失敗する可能性が高い。

 金を奪わずに戻すでしょう。

 あいつらが馬鹿なら、新たに加わった五億円分身代金を上乗せします。

 多少でも知恵があるのなら、仲間を増やして強襲に切り替えるでしょう)


 俺と弁慶は、打ち合わせを終えて、刑事さん達がいる場所に戻った。

 そして山田さんに相談を持ちかけた。

 

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