第39話ダンスィ4

「おじさん!

 開けて!」


 今日も敦史君達が家に帰る途中に事務所に来る。

 昨日色々と小学生男子の生体をネットで調べてみた。

 ダンスィと呼ばれているそうだが、敦史君達はちょっと違う。

 それが虐待する両親に育てられたせいなのかは分からない。

 思う存分親に甘えられない敦史君達の事を想うと、俺にできる事があればしてあげたいと、心から思った。


 剣鬼が何気なくすっと目配せしてくれる。

 運動靴に穴が開きかけている。

 普通はここまで履かないだろう。

 虐待両親に育てられたせいか、敦史君達は物を大切にする。

 でも今は国から補助が出ているから、お母さん達に言えば直ぐに買って貰える。


 まだお母さん達に遠慮があるのか?

 何かお願いして、お母さん達に断られるのが怖いのか?

 骨身に染みついた勿体ない精神なのか?

 お母さん達に嫌われたくないのか?

 お母さん達なら、気がつけば必ず勝ってくれる。


 お母さん達なら、補助金を超える額になっても、豪快に笑って買ってくれる。

 だがお母さん達は忙し過ぎる。

 敦史君達に十分目が届いていない。

 あの虐待両親から一分一秒でも早く引き離すには、これ以外に方法がなかった。

 里親制度を利用して金儲けしようとする奴らに預けるのも危険だった。


 だが、この状態が最良とは言い難い。

 普通の家庭で育つ方が、養護施設で育てるよりも、情操教育にいいと国が判断しての里親制度だ。

 家族のスキンシップが必要なのだが、今のお母さん達にそれを求めるのは酷だ。

 俺がお節介するしかないな。


 いや、お節介したいのだ。

 父性愛に目覚めたとは思わないが、家族と離れてこの国に来て、ホームシックになっているのかもしれない。

 心の隙間を埋めたくて、俺自身が敦史君達にスキンシップを求めているのかもしれない。


「お?!

 運動靴に穴が開きかけているな。

 もう買い替えた方がいいな」


「えぇぇぇぇ。

 これくらい大丈夫だよ。

 前は穴が開いても底が抜けても履いていたよ。

 これくらいで買い替えるのはもったいないよ」


「それは違うぞ。

 前は御両親が相手だったから、穴が開こうが底が抜けようが大丈夫だった。

 でも今はお母さん達が国から補助金を貰って敦史君達の面倒を見ているんだ。

 穴の開いた靴や破れた服を着ていると、お母さん達が悪口を言われるんだ。

 下手をしたら、腐れ教団やマス塵がお母さん達を叩くようになるぞ」


「駄目だ!

 そんな事は絶対にさせない!」


「だったら今迄のようにしてたら駄目だぞ。

 靴も服も、悪くなったらちゃんと言わないと、お母さん達が悪口を言われるぞ」


「でも……」


「じゃあ、おじちゃんが話してやろう。

 お母さん達の話難い事があったら、これからはおじさんに言いな」

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