第10話誘拐10
俺達は敦史達子供四人分の着替えを持って、光男と花子が救急搬送された病院を訪ねようとした。
だが着替えと言っても、ズタボロの衣服が少しあるだけだ。
病院には寝間着はあるだろうが、肌着まであるかどうかわからない。
だから着替えを用意したのだが、こんな糞尿の色が染みついた肌着を着せるのは、あまりにも可哀想だ。
「途中で光男と花子の肌着を買って行こう。
敦史君にも着替えを買ってやりたい」
「王子。
この国は平和で、医療水準も高いですが、救急搬送されるような状態です。
敦史君の不安を取り除いてやりたいと思われるのなら、少しでも早く病院に駆け付けてあげるべきです」
やれやれ。
弁慶に一本取られたな。
確かに弁慶の言う通りだ。
だが素直に言う事を聞くのも業腹だ。
「敦史君どうする。
直ぐに病院に行きたいか?
それとも着替えを買ってから行くか?
どちらがいい?」
敦史君は俺と弁慶の顔を交互に見て、はっきりと言い切った。
「直ぐ病院に行きたい。
光男と花子の側にいたい。
光男と花子は俺が護る。
もう家には帰らない」
小気味のいい子供だ。
弟妹を護るという決意に満ちている。
こういう子供を、真っ当に育てるのが大人の務めだろう。
稼いだ金は、その為に使うべきだ。
だが、俺の金は本国の物だ。
日本の子供に使う前に、本国の不孝な子供達に使うべきだろう。
特に生前贈与で得た本国の油田収入は、日本の子供のために使うのはおかしい。
母が分けてくれた株は、母が結婚前に稼いでいたモノだ。
それならば日本の子供達に使っても問題はない。
だができる事なら、俺自身で稼いだ金でこの子達を助けたい。
だが探偵業で稼いだ金など微々たるものだ。
むしろ赤字かもしれない。
だが、母から叩き込まれたトレーダーとして稼いだ金はそれなりにある。
それを使う分には、誰に何を言われる事もない。
「王子。
子供達の衣服は助っ人に持ってきてもらいましょうよ。
いざという時のために、バイト登録している見習いがいるでしょう。
それに人数が必要な時に助け合っている探偵社もあります。
こんな時こそ助けてもらいましょう」
弁慶が大使館職員に衣服を持って来てもらえと謎かけをする。
恐ろしい人相風体からは想像もでいないが、心根の優しい男なのだ。
今も何も表情を変えていないが、敦史君達に同情している。
まあ、それは剣鬼と剛龍も同じだ。
そんな気性の人間だからこそ、父王陛下と母はこの三人を俺の護衛に選んだのだ。
「分かった。
直ぐに助っ人を頼もう。
それとうっかりしていたが、親父さんお母さんにも連絡した方がいいだろう。
あの二人の事だ。
随分心配しているはずだ」
「分かりました。
では私がお母さんに電話します。
王子は助っ人の方に連絡してください」
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