第9話誘拐9

 俺は本国にいる母に連絡を入れて、日本政府に圧力をかけてもらう事にした。

 日本政府に対しては、原油の売買契約で圧力をかける事ができる。

 母親個人が持つ日本株の扱いでも、色々な所に圧力がかけられる。

 警察現場に圧力をかける気はないが、虐待児童保護と教団や政党の暗躍には容赦せずに圧力をかける。


「分かったわ。

 何も心配しないで。

 国内の教団員は全員逮捕して処罰するわ」


「いや、そこまでしなくていいよ。

 本国の大半はイスラム教徒だし、教団員は僅かだろ」


「わずかだからこそ、影響に少ないうちに徹底的に叩くわ。

 幸い貴男が撮影してくれた動画があるから、教団の悪事は証明されているわ。

 それに逮捕して厳しく捜査すれば、色々と悪事が証明されるはずよ。

 それを大々的に国連で悪質教団として取り上げるわ。

 そうすれば日本政府も動きやすいでしょう」


 やれやれ。

 これだから母さんに相談するのは嫌だったんだ。

 俺に対する愛情からなのか?

 それとも生まれ持った正義感なのか?

 母さんが動き出すと大事になるんだ。


「くれぐれもやり過ぎないでくれよ。

 俺は日本で静かに穏やかに暮らしたいんだ。

 できれば王子である事は隠して生きて行きたいんだ。

 頼むよ母さん」


「分かっているわよ。

 でもあんたからも大使館に連絡するのよ。

 弁慶達に任しちゃ駄目よ。

 現場で動いてくれる者達に気持ちよく働いてもらうのよ」


「分かっているよ、母さん。

 俺ももう子供じゃないんだよ」


「私から見れば、まだまだ半人前だよ。

 静かに穏やかに暮らしたいと言っておいて、探偵を仕事にするなんて。

 騒動に自分から首を突っ込んでいるようなもんじゃないか。

 言ってることとやってることが全然違うよ。

 それで一人前だとは言えないよ」


 やれやれ。

 まあ、母さんの言う通りなんだけど。

 探偵を選んだのは、子供のころ読んだ本の影響だとは口が裂けても言えない。

 そんな事を言ったら、それこそ子供扱いされてしまう。


「じゃあ、もう切るよ。

 くれぐれも頼んだよ。

 顔見知りになった子供が虐待で殺されるなんて、とても耐えられないからね」


「分かっているよ。

 一度係わった以上、絶対に助けるんだよ。

 気を抜くんじゃないよ。

 自分の手落ちで子供が死ぬようなことになったら、一生引きずるよ。

 それと、そんな風に育ってくれたことを、私は誇りに思うよ」


 おいおいおい。

 最後に何を言うんだ!

 そんな事を言われたら照れるじゃないか!

 だったら俺も言ってやる!


「ああ、手を抜いたりしないし、気を緩めたりもしないよ。

 それと、俺をこんな風に育ててくれた母さんを誇りに思うよ」


「……あんた」


 誰が最後まで聞いてやるもんか。

 最後に言ったもん勝ちだよ!

 

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