第20話誘拐20

 有難い事に、襲撃より前に幸次君が囚われている場所が特定できた。

 俺で襲撃を待つ必要がなくなったが、問題もあった。

 幸次君救出に俺達も同行するかどうかだ。

 今日確実に襲撃あるとは限らないが、俺達がいないと刑事と山田さんは確実に殺されるだろう。


 刑事さんは仕事なのだから、殉職するのも仕方がない。

 王子の義務として、軍務についたことのある俺はそう思う。

 だが山田さんは違う。

 漢気を出して捜査に協力してくれているだけだ。

 だから山田さんだけは危険から遠ざけたい。


 だが俺達が山田さんを家から誘い出したら、牛島が不審に感じるだろう。

 そうなったら、幸次君を監禁場所から移動させるかもしれない。

 最悪殺してしまう可能性もある。

 どうするのが一番いいのか判断ができない。

 弁慶達に聞くと、俺にとって一番安全な方法を献策するだろう。

 だから俺自身で考え決断しなければいけない。


「俺達が五億を持って移動したら、どうなると思う?」


「誘拐犯が気がつかなければ、そのまま襲撃するでしょう。

 恐らくその場合は、牛島以外は皆殺しになります」


「俺達に急な依頼が入り、五億円を持って帰ると牛島に言ったらどうなる?」


「間違いなく引き留めようとするでしょう。

 引き留めるのが無理だと判断したら、誘拐犯に連絡して、今日の襲撃は中止するでしょう。

 王子が聞きたいのは幸次君の安全でしょうが、それに関しては、なんとも言えません」


「刑事達に気付かれないように、山田さんを連れてこの家を出る事は可能か?」


「不可能です。

 日本の警察はそんな馬鹿ではありません。

 警察に話して逃げ出す事は可能ですか、五億円を置いて行くにしても、誘拐犯は不審に思うでしょう」


「幸次君の安全を確保して、山田さんも助けるのは不可能だと言うのだな?」


「恐らく王子は、幸次君と山田さんの両方を助けたいのでしょう。

 王子の安全を第一に考えるのなら、理由をでっちあげてこの家を出るべきです。

 ですが王子がどうしても二人とも助けたいと言うのなら、幸次君の救出は防衛駐在官と専門調査員に任せてください。

 彼らの能力を信じてください」


 弁慶が俺の気持ちを慮って、安全策を放棄してくれた。

 護衛としては失格だが、俺の側近ならそういう判断をしてくれなければならない。

 それに、自信もあるのだろう。

 自分達が護衛している限り、誘拐犯ごときは返り討ちできると言う自信だ。


「分かった。

 彼らの能力を信じよう。

 もう救出に動いてくれているのか?」


「はい。

 敦史君達の護衛は警察に代わってもらい、剣鬼が指揮を執っておりますので、何の心配もありません」

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