第21話誘拐21

 結果だけ言えば、幸次君の救出は成功した。

 爆弾が仕掛けられていないかとか、見張りが銃やナイフを突きつけていないかとか、色々な危険性を考えていたが、罠も見張りもいなかったそうだ。

 問題は幸次君健康状態だった。

 ライブ配信以降、何の飲み物も食事も与えられていなかったようだ。


 急いで光男と花子と同じ病院に運び込んだ。

 誘拐犯の虐待と両親の虐待を区別するのは難しい。

 だが、光男と花子の状態を診た先生なら、区別できるかもしれない。

 何より別の病院に運び込んだら、敦史君が安心できない。

 一分一秒でも早く、敦史君に無事な姿を見せてやりたい。


 俺はその場に居合わせる事ができなかった。

 だが立ち会った剣鬼の話では、とても感動的な場面だったそうだ。

 幸次君は敦史君に縋りついて号泣したそうだ。

 それを幼い敦史君が涙をこらえて慰めていたという。

 そんな感動的な場面には、何としてでも立ち会いたかったと思う。


 まあ終わった事は仕方がない。

 問題は誘拐犯のアジトだ。

 日本の警察はマス塵の圧力があるから、悪人であっても厳しい尋問はできない。

 だが俺達には関係がない。

 一味の者を捕らえたら外交官特権を使わせてもらう。


 だが今のところ、誰一人捕まえる事ができていない。

 幸次君を救出した事は、いつまでも隠しておけることではない。

 何と言っても一味の牛島が刑事なのだ。

 今晩中に襲撃をかけてくれれば、返り討ちも可能だ。

 ライブ配信動画をたどって、アジトを特定できるかもしれない。


「おい!

 幸次君を助け出したと言うのは本当か!」


 現場の責任者である関口刑事が詰め寄って来た。

 病院から警察に連絡が入ったのだろう。

 もう黙っている訳にはいかない。

 正直に話すべきだろう。

 警察にとってどれほど不本意な真実であろうともだ。


「ああ。

 牛島さんの通話履歴をたどって、幸次君が監禁されている場所を特定したよ」


「なんだと?

 何を言っているんだ!」


「だから、牛島刑事が誘拐犯の仲間だと言っているんだよ。

 何度も便所に行っていただろう。

 その度に誘拐犯と連絡を取っていたんだよ。

 嘘だと思うのなら、自分達で牛島刑事の通話やメールの履歴を調べればいい」


「いい加減な事を言うな!

 こいつは立派な刑事だ!

 お前達こそ、身代金の受け渡しが厳しと判断して、幸次君を解放したんだろう」


「そう思いたければ思ってもいいが、ここで牛島を逃がしたら、警察が警官がやった誘拐事件を隠蔽しようと、わざと逃がしたとマス塵に報道されますよ。

 それでもいいんですか?」


 あ!

 逃げた!

 

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