第35話雰囲気

 父親と話してから翌日。

 いつも通りの時間に、菜乃花の家に行く準備を済ませると、すぐに家を出ていく。

 いつも通りの道を、ただまっすぐと進む。

 そしてその道中に、あるものが目に入る。

 祭りの屋台だ。

 もしかして今日、この近くで祭りでもやるのだろうか?

 だとしたら、菜乃花を誘てみようかな……。

 そんなことを考えるが、とっさにかぶりをふって考え直す。

 菜乃花は病弱だ。だから学校とかにも通えていない。

 そんな彼女を、下手に外なんかに連れ出したら、もっと容態が悪くなってしまうのではないか。

 やっぱり誘うのはめよう。

 もう菜乃花に残されている時間は少ないんだ……。

 それを減らしてしまうかもしれない行為は、やってはいけない。

 僕は自分に強くそう言い聞かせ、一瞬立ち止まった足をまた動かし始める。

 それからほどなくして、菜乃花の家に着く。

 僕は菜乃花の家に上がると目の前にある階段を登り、登ってすぐ右にある菜乃花の部屋をノックする。

 

「入るよ」


 一声かけて、返事が来るまでじっと扉の前で待ち続ける。

 僕の声に気がついた菜乃花は、どうぞと返事をして扉を開けてくれた。

 部屋に入るなり僕は、荷物を床に置いていつもの定位置の椅子に座る。

 毎回座るたびに思うのだが、僕はこのまま菜乃花と喋っているだけでいいのか?

 最初、この家に来た時に「看病する」なんてことを言ったはいいものの、結局看病らしいことは何一つしていない。

 というかそもそも、彼女には看病が必要ないのだ。

 というのも、別に歩くのにどこか不自由があるわけでもないし、特別出来ないことも特にない。

 病弱と言われても、正直まだ実感できていない。

 はたから見たら、普通の女の子と何一つ遜色そんしょくない。

 だからそんな彼女が、もうすぐ亡くなってしまうなんて実感が全く湧いてこない。

 もしかしたらこのまま、この先も一緒に居られるのではないかとさえ思ってしまう。

 でも、それは無理なのだろうとわかる。

 見た目は普通の一般人と変わらない菜乃花だが、彼女からは普通の一般人からは出ない、雰囲気が漂っている。

 目には見えないが、確かに感じ取れるもの。

 悲壮感や儚さと言った、そういうものが彼女の周りを囲んでいる。 

 僕は一つため息をすると、彼女の方を向いて。


「そういえば、父親と無事に話すことができたよ」


 そんな報告を、無理やり作った笑顔でする。

 

























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