第18話受け入れられない未来
菜乃花との会話の最中にふと、一つだけある小さな窓が目に入った。
その小さな窓は一面真っ暗で、あたりがすっかり暗くなってしまっていると分かった。
僕は右手につけている腕時計を確認すると、短針が7の数字を指していた。
話に夢中で気がつかなかったが、もうかれこれ2時間ほど僕たちは会話をしていたらしい。
僕はベッドから腰をあげると、菜乃花の方を向いて。
「今日はもう帰るよ」
ドアノブに手をかけてそう言った。
すると菜乃花は、窓の方を見て。
「あ、もうすっかり暗くなっちゃってたね」
寂しそうにそう言うと、窓に向けていた首を僕の方に向けて。
「じゃあ、また明日」
といって、ひらひらと小さく手を振ってくれた。
僕はそれに返すように、じゃあまたといって手を振り返す。
そしてドアノブを開けてすぐ左にある階段を、ゆっくりと一段ずつ降りていく。
階段を降りて一階に着くと、雨でずぶ濡れになった靴を履いて、お邪魔しましたと小さな声で言ってから玄関を出て行った。
玄関を開けると、視界はほとんど見えないぐらいの暗さで、一定の間隔で設置されている街灯だけを頼りに僕は家に向かった。
ここに来るまでの道のりはうろ覚えだが、それでもさっきの記憶を頼りにいつもの橋まで来ることができた。
橋までついた僕は、今日の話の内容を鮮明に思い出す。
菜乃花の家族の話、菜乃花の僕に対する気持ちの話、僕の家族の話、今日だけでも色々なことを話した。
僕の今までの人生の中で、一番濃くて幸せな時間だったんじゃないかとさえ思えた。
それぐらい僕たちは笑いあったし、慰めあった。
でもそれ故に、僕はまだ菜乃花がもうすぐ死んでしまうことを信じられずにいた。
あれだけ無邪気に喜んだり、元気そうに笑ったりしていた菜乃花が、本当に死んでしまうのか信じられなかった。
医者の勘違いとか、そんなことなのではないかと思ってしまう。
でもそんなことは多分ない。
僕がそうであってほしいと、自分の中で都合のいい未来を考えてしまっているだけで、現実はそんなにうまくはいかない。
現実が苦しくて、うまくいかないなんてことは僕が一番知っている。
だけど、それでも、僕はまだ、菜乃花が助かる未来を期待してしまっている。
期待なんてものはすぐ裏切るのに、それでも期待して待つことしかできない。
帰り道の途中、僕は一人でに目を瞑って、いるはずもない神様に神頼みをした。
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