第19話問題の解決
「ただいま」
いつも通りに小さく、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で挨拶をする。
靴を脱いで玄関を上がると、居間の方からいい匂いが漂ってきた。
きっともう母親が料理を作っているのだろう。
僕はすぐに居間の方に向かうと、料理の並べられたテーブルの前に、父親と母親が座って僕のことを待っていた。
家族全員揃って食事をする。
それだけは昔っから変わらないことだ。
何か特別な用事がない時以外は、必ず揃って食事をする。
それを破ったこともないし、破られたこともない。
どうしてそんな律儀に守っているのか。
それは、僕たち家族が一緒に過ごす時間なんて、食事のときだけだからだ。
食事の時以外は基本無干渉な家族。
きっと食事の時だけでも一緒にいないと、壊れてしまうんだ。
それを家族全員が分かっている。
だから、あるのかないのかも分からない絆を、食事を一緒にすると言う行為で保ち続けている。
僕は自分のいつも座っている場所に座ると、いただきますと言って黙々と食べ始める。
そして食べながら、菜乃花の言葉を思い出す。
「つまりさ、君は認めてもらいたいんだよ」
あの言葉について考える。
認められたい……?
確かに僕は、少なからず父親を認めさせるために勉強をしてきた。
でも認めさせたからなんだって言うんだ?
その先に何がある?
認めさせたからって僕になんの得がある?
僕は、今までの自分の行動と考えがわからなくなっていた。
だいたい認めさせるってなんだ?
テストで学年一位を取れば、あの父親は認めるのか?
僕はそれで何がしたいんだ?
頑張ったなって褒めて欲しいのか?
いや、そんな単純なことじゃない。
僕が求めているのはその先にある気がする。
でもその先のものがわからない。
その先のものを手に入れる方法がわからない。
でも多分、このままじゃ僕の欲しいものは手に入らないことだけは分かる。
僕は出された料理をすぐに食べ終えると、すぐに食器を洗いどころに持っていき自室に行く。
早く菜乃花に会いたい……。
きっと菜乃花に会えば、僕が今悩んでいることなんてすぐにどうでもよくなる。
多分家族のことだって、どうでもいいんだ。
菜乃花と話すための、話題作りでしかない。
だからもう、父親のことを考えるはやめよう。
暗い部屋の中、僕は目の前の問題から逃げるように菜乃花のことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます