第25話叶わない夢
「将来の……夢?」
いきなりそう聞かれた菜乃花は、キョトンとした表情になっていた。
「うん、将来の夢。菜乃花は何か、やりたいこととかないの?」
そう聞くと菜乃花は、ぐいっベッドから身を乗り出して。
「作家さん!」
大きな声で、嬉しそうにしながら言う。
「私ね、もしこの先生きることが出来たならね、絶対小説家になりたいの」
そして菜乃花は視線を僕の持っていた小説に向けて。
「その小説の作家さんみたいに、読者を感動させるような、そんな素敵な小説を書く人に私もなりたいなーって思ってるの。自分の考えた世界を誰かに見て評価してもらえるって、とっても素敵なことだと思わない?」
楽しそうに、それでいて少し寂しそうな表情になる菜乃花。
彼女には立派な夢がある。
でもそれは、叶えることが出来ない。
努力とか、才能とか、そんなものなんかでは到底超えられない壁が、菜乃花の前に立ち塞がっている。
小さな白い世界の中で見つけた、たったひとつの夢は、夢として終わってしまう。
その道しか、菜乃花にはないのだから。
僕はまた自分で質問しといて、勝手に嫌なことを考えてしまっている。
菜乃花の寂しそうな顔を見るたびに、胸が痛くなる。
そんな様子の僕を見かねてか、菜乃花はちょいちょいと小さく手招きをしてきた。
「ほら、翔太くんも座って。次は君の話、聞かせて……」
菜乃花に気を使われた僕は、言われるがまま菜乃花のベッドの上に腰掛ける。
ベッドに座った僕は、手を交差して。
「僕は……」
話そうとした瞬間に。
「待って!」
菜乃花は僕の口にストップをかけるように、手の平を僕の顔の前に置く。
「今から君の将来なりたいこと当てるから待って」
そして数秒ほどが経つと、あ! と言って、右の手の平を左手の握りこぶしでポンと叩く。
「医者でしょ!」
どうして菜乃花がそう思ったのか分からなかった僕は、菜乃花にどうして? と聞くと。
「だって翔太くん頭いいんでしょ? 前にテストで学年三位とか自慢してたし」
「別に自慢はしてないよ……」
とっさに否定するが、菜乃花は僕の言葉を聞き流して。
「それに、私が病弱だから、そういうのを治せる人になりたいのかな……って……」
恥ずかしそうにそう言った菜乃花だが、僕の夢は菜乃花の想像していたものとは違う。
僕は、恥ずかしそうにしている菜乃花の方を向き。
「確かに、菜乃花の命があと数十年あったら医者を目指してたかもしれない。でも、菜乃花の寿命はそんなに待ってくれない。だから僕の夢は、医者じゃないよ」
自分の予想と違う回答をされた菜乃花は、驚いた表情になり。
「じゃあ何!?」
顔をぐいっと近づけてきた。
どうしてそんなに僕の将来の夢が医者という事に、自信を持っていたのだろう?
菜乃花がそう思った意味は僕にはよく分からなかったが、僕はまっすぐ前を向くと。
「写真家」
ハッキリと、今の自分の将来の夢を言った。
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