第26話写真家

 僕の答えに菜乃花は少し驚いた表情をしていたが、すぐに近づけた顔を離して。


「へー少し以外。どうして?」


 手を膝の上に置いた菜乃花は、落ち着いた様子で質問してきた。

 そう聞かれた僕は肩に力が入り、ぽりぽりと自分の右頬を掻きながら。


「前も話したと思うんだけど、僕ってあの橋から見える夕焼け空が好きなんだよね。儚くて寂しくて、それでいてとても綺麗なあの景色が……」


 僕が少し声音を低くしながらそう話すと、菜乃花も共感しているのかうんうんと頷いていた。

 僕は続けて。


「でも別に、あの景色が好きだから写真家になりたいって思ったわけじゃない。夕焼け空は好きだけど、それは単なるきっかけでしかないんだ」


 僕がそう言うと、菜乃花は優しく微笑みながら。


「じゃあ君が写真家になりたい本当の理由は?」

 

 そう聞かれた僕は、少し恥ずかしくなり、声量を下げて答えた。


「あの橋は、僕と菜乃花を出合わせてくれた場所だから……」


 僕がそう言うと、菜乃花はキョトンとした様子だった。

 そんな様子の菜乃花に、僕はもっと分かりやすく説明をするように話を続ける。


「多分世界中には、あの橋よりもっと綺麗な場所がたくさんあると思うんだ。それでその景色の一つ一つには、出会いとか別れがある。そんな素敵な場所を、光景を、僕は写真に焼き付けたいって思った。だから写真家になりたいって思ったんだよね……」


 ちゃんと説明できていたか分からなかった僕は、不安になり菜乃花の瞳を見つめる。

 そんな僕に向かって、菜乃花は少しだけ口角を上げると。


「すごく、いい夢だね……」


 一言そう言ってくれた。

 






























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