第43話手紙

「拝啓、熊谷翔太くんへ……。

 こう言う時は普通、様ってつけるものなのかな? 普段手紙なんか書かないから、そこらへんは大目に見てもらえると嬉しいです。

 多分君が今この手紙を読んでいると言うことは、手術は失敗してしまい、私はもうこの世にはいないのでしょう……。

 でもお医者さんのことを責めないでください。

 もともと失敗する前提の手術で、成功したら奇跡だったのだから、仕方のないことです。

 私が今、どうして君に手紙を書いているかというと、少し、伝え残したことがあるから。

 初めて出会ったのは、なんの変哲のない、小さな橋の上だったね。

 最初に君から声をかけられた時、私はなんて答えればいいのかわからずに、へんなことを言ってました。

 あれほどぎこちない会話は、生まれて初めてしました。

 普段誰とも喋れない私と、普段誰とも喋らない君だから起こってしまった、奇跡の会話だったね。

 それからというもの、私たちはあの橋を通して次第に仲良くなっていったよね。

 惚れっぽいのか、それとも歳が近い男の子と話すのが初めてだからかわからないけど、私は君と出会ってからすぐに、君のことが好きになってた。

 そして多分君も、私のことが好きなんだなーってなんとなく察しはついてた。

 だって君は、恋をしている私と、おんなじ顔をしてたから!

 でもそれに気がついた時、すごい罪悪感が私を襲った。

 私が彼と一緒にいたら、いつか近い未来、彼は私と居たことを後悔してしまう。

 今後の数十年という長い時間を、私のわがままで台無しにしてしまう。

 そう思った私は、君と距離を取ろうと思い、何も言わずに橋に行かなくなりました。

 そのせつは本当にごめんなさい。

 君に心配をかけてしまったことは、本当に申し訳ないと思っています。

 でもそんなわがままな私のことを、君は待っててくれた。

 雨の中ずぶ濡れになりながら、あの橋に居てくれた。

 そんな君の姿を見た時に、思わず声をかけてしまった。

 それから私は、私の病気のことを君に話した。

 でも、ここでも本当は、病気のことを話すべきじゃなかった。

 何事もなく、ただ親戚の家に行っていたとか、適当に嘘をついていた方が君のためだった。

 でも私は、君に病気のことを話した。

 もっと私のことを知って欲しかったから……。

 もう君に隠し事をするのが辛かったから……。

 私のわがままで、君が傷ついてしまう選択をしました。

 それでも彼は、私を看病すると言ってくれた。

 その時は本当に嬉しかったし、心の底から君と出会えて良かったって思った。

 結局看病は一度もしてもらってないけど、君といろいろと話せたから良かったかなって思ってる。

 好きな小説のこと、将来の夢のこと、家族のこと、いろいろ話しましたね。

 こんなに濃い時間を分け与えてくれた君には、感謝してもしきれないです。

 でもやっぱり一番嬉しかったのは、あの祭りのこと……。

 あの日、君が抱きしめてくれた時、本当に嬉しかった。

 今まで思ってた嫌なこととか、全部どうでもよくなるぐらい嬉しかった。

 本当にたくさんの思い出を、ありがとう……。

 君に出会えたことが、私にとっての幸運でした。

 君と一緒に入れた時間が、私にとっての幸福でした。

 君を好きになれたことが、私にとっての喜びでした。

 君の隣にいれたことが、私にとっての幸せでした。

 誰より不幸だった私の人生を、君が、世界一幸せな人生にしてくれた。

 本当に、本当にありがとう……。

 こんなワガママで、一途な私のことを好きになってくれる君のことが、本当に……大好きでした!」













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