第42話絶望

 それからどれほどの時間が経っただろうか……?

 外は真っ暗で街灯が灯りを照らしている。今日は時計を持ってきていない。だから今が何時なのかは分からないが、見当はつく。

 多分午後10時ぐらいだろう。太陽が沈んでから結構な時間が経った。これほど帰りが遅いなんて……。

 彼女はまだ戦っているのか?

 もし、もうその戦いが終わったのなら、結果はどうなったのだろう?

 無事に勝つことができたのだろうか?

 その結果を聞くまでは、ここから離れることはできない。体育座りを長いことしていたせいで、尻の感覚がない。

 それでも姿勢を崩さずに、じっと彼女の帰りを待ち続ける。

 ゴロゴロと車道を走る音がした。見慣れた一台の車が、菜乃花の家の駐車場に車を停める。

 やっと帰ってきた。僕は立ち上がると、車の前まで走った。ガチャっと車のドアが開く音がした。

 中から出てきたのは、菜乃花のお父さん……ただ一人だけ。でもまだ絶望するのは早い。手術が成功して、病院で入院しているだけかもしれない。

 そんな希望を捨てられずにいる。でも現実というものはいつでも残酷で、悲しいもので、菜乃花の父親は僕と目があうと、その目を伏せて。


「翔太くん、これを」


 一枚の手紙を僕に手渡してきた。なんだこれ?

 僕が待っていたのはこんな紙切れじゃない。菜乃花はどうなったんだ?

 

「あの……菜乃花は……?」


 ゴクリと唾を飲み込み、菜乃花の父親の言葉をまった。でももう……聞く前からわかってしまった。

 その表情と、その雰囲気を見れば、わかってしまう。それでも、言葉を待ったが……。


「菜乃花は……残念だけど、もう……」


 それを聞いた瞬間に、僕は手に持っていた手紙をぐしゃりと握りつぶして走り出した。

 わかっていたことだ。覚悟していたことだ。でも、だったら、変な期待を持たせないでほしい。

 結局こうなるなら、手術なんていう希望を出さないで欲しかった。それからずっと走った。

 家には向かわずに、どこかへと走り続けた。どうして走っているのだろう。きっと逃げ出したいんだ。

 理不尽な世の中から。不幸しかない現実から。辛いことしか待っていない、未来から……。

 そんなことを思ったところで、逃げ出せるわけがなかった。走り疲れたぼくは、近場の街灯が照らされている公園の椅子に腰掛けた。

 そこで、手に持っていたぐしゃぐしゃの手紙を開いた。
















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