第10話寂しい表情
そして次の夕方。
菜乃花は昨日と同じように、橋の上で夕日を見ながら待っていた。
僕は菜乃花と少しでも多くの時間を一緒にいたいと思い、昨日と同じように一直線に向かって走った。
菜乃花の元に着くと、昨日と同じようにくだらない会話をたくさんした。
色々なことを話し合い、菜乃花も楽しそうに僕の話を聞いていた。
そして時間はあっという間に過ぎていき、昨日と同じ時間、5時のチャイムが鳴り終えた時、彼女は家に帰ってしまった。
でも僕は、また明日も会えるから大丈夫と思っていた。
そんなふうに思いながら、僕は明日が来るのを楽しみにしながら家に向かう。
そして次の日も。
またその次の日も、菜乃花と橋の上で会話をした。
そして菜乃花と出会ってから10日ほど経った時だった。
僕は菜乃花のある癖に気がついた。
菜乃花が笑ったりした後、ほんの1秒にも満たない一瞬の間、すごく寂しそうな顔をする。
どうしてそのような顔をするのか疑問に思ったが、僕は聞き出せずにいた。
その理由を聞いてしまったら、もう二度と彼女に会えないような気がしてしまったから。
そんなことを思わずにはいられないほどに、菜乃花のその表情はとても儚かったのだから……。
しかし、聞いてはいけないと思いつつも、僕は聞きたくて仕方なかった。
僕はまだ菜乃花のことをほとんど何も知らない。
もっと彼女を知りたい。
だから、このことを聞けばもっと菜乃花のことを知れると思った。
僕は次に菜乃花が寂しそうな顔をした時に、思い切って聞いてみることにした。
「それで僕が健だと思って声をかけたらさ、全然違う人でさ」
僕はいつも通りにくだらない話をする。
すると菜乃花は、手で口を押さえて。
「ふふ、何それ」
っと微笑んだ。
そしてその微笑んだ後の一瞬に、また寂しそうな顔をした。
僕はそのタイミングで菜乃花の方を向いた。
「ねぇ、どうしてそんなに寂しそうな顔をするの?」
なんの脈絡もなく突然そう質問すると、菜乃花は最初、驚いた表情をしていた。
しかし、少しすると菜乃花は俯いてしまった。
僕は心配になり、菜乃花に大丈夫? と声をかけようとすると。
「ごめんね」
小さく、今にも消えそうな声で菜乃花はそういうと、家の方向に走って行ってしまった。
やっぱり聞いてはいけないことだったのかもしれない。
明日彼女に謝ろう。
僕は悪いことをしたと思い、反省しながら家に向かった。
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