第22話もしも……

 …………。

 少しの間、沈黙が続く。

 菜乃花の死をもっと、昨日よりも深く実感してしまい、また心が沈んでしまう。

 こんな状態じゃ、菜乃花を元気付けるとかそんなこと出来っこない。

 菜乃花の方が僕よりもよっぽど辛いなんてこと、分かっている……。

 でも悲しまずにはいられない。

 置いて行かれる方も、置いて行く方も、どちらも辛いに決まっている。

 そんなことを考える。

 多分、今読んだ小説の主人公に感情移入させられてしまったんだろう……。

 置いていかれる者の気持ち。

 その痛みが、苦しみが、僕にはすごいわかる。

 これから来る別れの時を考えるだけで、頭がおかしくなりそうになる。

 後何日、何十日じゅうにちとしか残されていない時間が、菜乃花との別れまでのタイムリミットが、とても怖い。

 俯いたまま、僕はただ小説の表紙を眺め続けていた。

 そんな様子の僕に突然、菜乃花が。


「ねぇ、もしもさ、私がなんの変哲も無い普通の女の子で、普通に学校に行って、普通の人生を歩んでたら、私たちは出会ってたのかな?」


 突然そんなことを聞いてきた。

 いきなりのことに少々驚いたが、僕は今朝思っていたことをそのまま口にした。


「多分、出会ってないよ……。歳も違うし……。それに、仮に出会っていたところで出会うだけ。知り合いにすらなっていなかったと思うよ」


 俯いたまま、ズバッと言うと、菜乃花は少し強い口調で。


「確かに、翔太くんみたいな暗くて、ネガティヴで、物事を否定的に捉える人とは仲良くなれなかっただろうね」


 っと、軽く悪口を言ってきた。


「傷つくな……」


 割と胸に突き刺さる言葉をもらった僕は、呟くようにそう言うと、菜乃花は少し嬉しそうにしながら。


「お互い様!」


 笑いながらそう言った。

 そして菜乃花は、それに続けるように。


「でもね、私はそんな翔太くんだからこそ、ここまで好きになれたと思う。暗いのに優しくて、ネガティヴなのに私のために無理して明るく振舞ってくれて……。多分、普通の出会い方をしてたら君のこと、こんなに知らなかった。ただの根暗だと思って、知ろうともしなかったと思う」


 そんな優しい言葉を、僕に言ってくれた。

 それに返すように、僕は顔を上げて。


「僕もそうだよ。菜乃花が病弱で、それでも誰よりも強くて優しいから、僕はこんなに菜乃花に惹かれたし、こんなにす……きに……」


 最後の言葉で急に恥ずかしくなり口ごもる。

 菜乃花はなんの抵抗もなしに言ってくれるが、僕にはまだこの言葉を言う抵抗があった。

 多分、菜乃花は最初っから気づいていたと思う。

 それでも、例えばれていたとしても、いざ自分の口から言うのは恥ずかしかった。

 僕は顔が熱くなっていくのを感じ、それを隠すように持っていた小説で顔を覆った。

 しかし、菜乃花は僕が持っていた小説を勢いよく取り上げると。


「ん? よく聞こえなかったからもう一回言ってよ」


 嬉しそうに、茶化すようにそう言ってきた。

 








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