第11話希望

 次の日の夕方。

 僕は菜乃花に謝ろうと思い、いつもより30分ほど早く橋に向かった。

 そして着いてから僕は、菜乃花をただひたすらに待ち続けた。

 昨日のこと、あれは菜乃花にとって聞いてはいけないことだったのだろう。

 今日会ったら何よりも最初に謝ろう……。

 そう思いながら、僕は何もせずぼーっとしながら菜乃花を待ち続けた。

 そして待つこと1時間。

 彼女は来なかった。

 いつもならたくさん会話をして、5時のチャイムが鳴るタイミングでお別れをする時間なのに。

 もしかして昨日の僕の失言をそんなに怒っているのだろうか。

 もしかしたらもう二度と彼女はこの橋には来ないんじゃないか。

 ただうるさく鳴り響く鐘の音が、余計に僕の不安を大きくする。

 もう帰ろう。

 きっと明日は来てくれるだろう。

 なんの根拠もないが、僕はそう思い続けることでしか自分を保てそうになかった。

 僕が初めて心を開くことができた人。

 そんな人を、僕のたった一言の言葉で失うなんてことは、あってはならない。

 やっと見つけた僕の居場所を……。

 彼女との居場所を、僕自身が壊すなんてことは、絶対にあってはならないことだ。

 僕は不安と罪悪感に押し潰されそうになり、胸をキュッと抑えつける。

 大丈夫。

 明日は来てくれる。

 そう自分に言い聞かせながら、僕は家に向かった。

 しかし彼女は次の日も……。

 またその次の日も来ることはなかった。

 もうきっと愛想をつかされてしまったのだろう。

 いや……。 

 もともと愛想なんてなかったのかもしれない。 

 ただ僕だけが勝手に舞い上がっていただけで、彼女は僕となんか一緒に居たくかったのかもしれない。 

 思えばはじめっから、僕だけが盛り上がっていた気がする。

 そんなネガティヴなことばかりが頭の中に浮かんでくる。

 そして彼女が橋の上に来なくなってから、かれこれ五日ほどがたった。

 僕は今日も変わらず橋に行く準備をする。

 時刻は午後四時。

 行ってきますと小さな声で言うと、僕は傘を持ってドアを出る。

 そして僕はドアを出てすぐに傘をさすと、その雨の中を一人、ゆっくりと進んでいく。

 ザーザと勢いよく雨は降り続け、僕のズボンまで濡らしてきた。

 橋に着く頃には、僕のズボンはほとんど濡れていた。

 そしていつものように、彼女の姿はなかった。

 もう多分菜乃花がこの橋に来ることはないのだろう。

 そう心のどこかで思ってしまう。

 それでも、またこの橋に来てくれるのではないかと淡い希望を抱きながら、僕は橋の上で待ち続ける。

 雨は次第に強くなっていき、傘の意味がないほどに僕の体は濡れていた。

 そんなずぶ濡れのまま待っていると、ついに5時のチャイムがなってしまった。

 今日も彼女はこなかった……。

 この5時のチャイムを聞くたびに、僕は憂愁ゆうしゅうな気持ちになる。

 僕の心にぽっかりと空いた穴は、ふさがるどころかどんどん広がっていく。

 今日はもう帰ろう。 

 5時のチャイムが鳴り終わり、僕はくるっと家の方を向いて歩き出そうとした時だった。

 

「翔太くん……?」

 

 雨にかき消されてほとんど聞こえないぐらいの小さな声が、僕の名前を呼んだ。

 僕はハッと後ろを振り返ると、そこには傘をさした菜乃花の姿があった。

 

 

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