第30話壁

 何か話してみる……?

 何を話そう。

 どうやって話すきっかけを作ろう。

 まだ色々と分からない。

 話すだけでも何か見えてくる世界は変わるかもしれないと菜乃花は言った。

 でも、正直あの父親と話をしただけで、何かが変わるとも思えない。

 僕はそんなに、物事を楽観的に観ることができない。

 やっぱり無理な気がしてしまう。

 話をするという行為に、意味があるのか。

 意味を出せるのか。

 やはり、話す程度のことでは、現状は何も変わらないのではないか。

 そんなことを考え始めると、また考えの負の連鎖が続いてしまう。

 一度でも嫌なことを考え始めてしまうと、いつもこうだ……。

 根底となる負が、どんどんと枝分かれして新しい負を作り出していく。

 僕がネガティブに物事を捉えてしまう原因は、この思考にあると思う。

 もっと楽に、何も考えずに生きていけたらよかったのに。

 どうしてこんな風に育ってしまったのか。

 そんな自己嫌悪に陥る。

 白いベッドの上、何も聞こえない静かな空間で、カリカリと頭をく。

 そんな静寂の中、


「これは持論なんだけど。人ってさ、大きな壁を超えた時に成長できると思うんだよね。正規の方法で乗り越えようとも、奇想天外な方法で壁をぶち破ろうとも、その先に道を作ることができたなら、その人は成長できたってことだと思うんだよね」


 すこし長く、菜乃花は自分の考えを僕に話してきた。

 どうして急にこんな話を?

 菜乃花はよく、なんの脈絡もなく話し始めることがあるので、話の意図がわからずに混乱することが多々ある。

 

「つまり僕は今、父親という壁にぶつかってるってこと?」


 話の流れ的にも、菜乃花は多分そう伝えたいのだと思う。

 僕がそう聞くと、菜乃花は


「多分ね」


 一言だけ。

 確証もないのだろうから、絶対とは言わなかった。

 ただ、僕が悩んでいる原因は父親という存在にあるから、それを”壁”と菜乃花は言っているのだろう。

 まあ確かに、ずっと前から僕は、一歩も先には進められていなかったのかもな……。

 菜乃花の持論とやらを僕に当てはめると、そういうことになる。

 物心ついたときからずっと、僕の道には大きくて頑丈な壁が立っていて、僕はその壁の前から一歩も動けないでいる。

 でもそれは当然だ。

 乗り越えようとも、壊そうともせずに、ただ逃げていたのだから。

 それじゃあ当然、その先に進めるはずがない。

 問題を解決ではなく解消しようとしていたのだから。

 そもそも、その”壁”とやらをどうにかしようとしていなかった。

 ただすたれて、壊れるのを待っていただけ。

 その道を開けるのは、自分じゃなくて、時間だと思っていたから。

 だから切り開こうとすらしなかった。

 でも今は、すこしだけ違う。

 先に進もうと思えるきっかけを、菜乃花からもらったから。

 僕は今までの自分の人生をすこしだけ軽く振り返りながら、この後のことについて考えていた。

























 

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