DesartWorld

O3

開幕

序章

 世界は昔、それは大層美しいものだったらしい。


 透明な飛沫をあげて流れ落ちる滝、真っ赤に焼けるような澄み切った夕焼け、どこまでも引き込まれていくような海。様々な生き物がひしめき合う森林。力強く高貴に吠える獣たち。


 残念ながらそんな場所が残っているのは今じゃ数えられるほどしかない。


 私の両親がそう嘆いていたのをよく覚えている。


 原因はやはり度重なる戦争によるものなのだろうか。はたまた他の原因か。私の専門は言語なので的確な答えを述べることはできないだろう。

 第五次世界大戦はとうの昔に終わったはずなのに、人々の心に付いてしまった戦火は未だに消えることなくくすぶり続けているようだ。


 が、こうして我々は生きている。


 それに然り、世界も廃れてはいるがまだ生きている。それぞれの地で各々の生き方を貫いて生きている。私もそうだ。


 この世界を見捨てるにはまだ早い。


 そう思って私は筆を握り、これを書き連ねている。


 そして、隣にあるのは古いバックパック。作家でもあり、学者でもあった父のものだ。相当使い込まれているがまだまだ頑張れるだろう。


 その中に、既に必要最低限なものは詰めてある。忘れ物はないだろうか。あってもその場で調達すればなんとかなるだろうか。


 部屋は要らない家具などをほとんど売ってしまったせいで、空っぽだ。窓から見えている見慣れた無機的な光景にもしばらく別れを告げねばならない。


 私がこの世界の語り部になろう。


 思い立ったのはほんの数日前なのだが、自分の行動の早さに我ながら驚いた。

 昔から行動が早いとは言われていたが、それをようやく本人が実感したようである。


 これがどのくらいの時間がかかることかはわからないが、私はこれから世界を周り、目にしたものをなるべく全てをここに記していくつもりだ。



 3XXX アマノ・ソウシ


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