廃れた砂漠の都市の少女 2
乾燥した風が体に打ち付ける。
こんなに乾燥した土地に来たのは久しぶりだった。
空にかかる雲は一つとないが、巻き上がる砂埃のせいで空は霞んで見える。
晴天の元、ジルは広場の元であたりの散らばっているゴミを眺めていた。その、さらに後方の荒廃した先人の遺産は相変わらずの様子だった。
意味もなく無駄に大きな存在感がある。あるのは存在感だけであとは空虚なものでしかないのだが。
それよりも圧倒的な存在感を放っているのは目の前のガラクタたちだ。
もう既に、ちょっとした丘になっているここのゴミは基本的にボロボロの鉄柱や鉄パイプ、それとなにかよく分からない機械の箱のようなものもポツポツと目立つ。
箱のようなものは人がちょうど抱えて持てるくらいの大きさや自分の背丈くらいのもあり、扉が着いていて中に何かを入れられるように空洞になっていた。
あれはたしか、科学文明都市の機械だったような気がする。
他にも大小は異なれど似たようなものを沢山見つけた。今まで他にもたくさんのゴミの山を見てきたがここは本当に鉄くずしかないようだなと、ジルは転がってる表層が剥げた空き缶を蹴り飛ばした。
生ゴミとかではないので鼻に突き刺さるような強烈な匂いはとくにしなかった。ただ、油のこびりついたような臭いは薄く漂っている。
運搬元はおそらくある科学文明都市からだろう。あそこで処理しきれなくなったゴミをこうした誰もいないようなゴーストタウンに捨てに来る。
科学文明都市は便利なものが多いが無駄の多い生活をしていると、ジルは以前立ち寄った都市の生活風景を思い出した。
まだ使えそうなものもあるのに勿体ない。
こんなのでよく、世界は資源不足だと嘆けるものだ。
「…………なぁ、なんかあったか?」
ジルはそのゴミをさっきから片っ端から漁り回っている少女に話しかけた。ずっとさっきから一点でゴソゴソと何かを漁っている。
話を聞くと、こいつはどうやら一日の大半はこうしてゴミの中から金に変えられるものを探しているらしい。
それをまとめて近くの回収所へと持って行っている。近くといっても歩いて半日はかかるとのことらしい。
少女はそれをどうやらずっと繰り返し続けて、ここまで生きてきたようだった。なかなか大変な暮らしであるのにも関わらず、ジルは聞いていて刺激の無さに気が滅入りそうであった。
ジルは昔からどこかに停滞するのを好まない体だった。
傭兵というのが常に仕事を追いかけて移りゆく職というのもあるが、それでも仕事がない限りその地に滞在する期間というのは恐らく同業者の中では短い方だろう。
が、ジルは旅の暇つぶし程度に、ここにしばらく滞在することにした。
傭兵業といっても仕事が全くない、言わばほぼ放浪者同然の時もあれば、常に殺伐とした戦場を走り回っている時もある、結構波のある仕事だ。
この前はちょっとした用心棒代わりの仕事を引き受けたくらいだが、そろそろ何かしらの休息が欲しいと思っていた所だった。
いろいろ刺激的すぎても疲弊するだけである。その刺激を中和するべく、ジルはこうして少女の行動に同行しているわけである。
ゴミ山の上で身を屈めている彼女の髪はジルの髪とは対照的に瑠璃のように真っ青であった。海の青とは異なる色味だがこれも綺麗な青だとジルは感じた。
青も濃いと意外と目立つようにも見えた。
少女はジルの言葉に答えるかのように、立ち上がった。足場の悪いゴミの上でも少女は平然と器用に歩く。
ひらひらとチグハグに2つにまとめた髪を揺らしながら、何かを持ってこちらにやってきた。
「傭兵。これ、なんか分かるか?」
少女が話しかけてきた。
少女はジルに対してなんの警戒心もなく、すぐにこうして話すようになっていた。
むしろ警戒していたのはジルの方かもしれない。少女は束の間の話し相手ができて嬉しかったようだ。
たが、お互いにまだ名前は聞いていない。
少女はジルのことを「傭兵」とそのままで、ジルも彼女をなんとなく、やさぐれた感じがあるもんだから「やさぐれ」と呼んでいた。
名はあるものの、2人とも特に名乗ろうとしないので今後もたぶんこのままだろう。
少女は手に持っていた物をジルに向かって放り投げてきた。急に物を投げられてジルは少々焦った。
投げられたものが手に触れると共にその重量が体に伝わる。落とすことなく、なんとか掴むことができた。
ジルは投げられたものに目を落とした。
他の鉄くずとはまた随分と奇妙でひとつの塊にさらに2つの筒をくっつけたような形をしている。小さい見かけにも関わらず、大きさの割にはずしりと重たかった。
「おいおい……なんでこんな物騒なもんがあるんだよ…。」
思わず驚いてしまった。
ジルはその鉄筒を本来使用するやり方
で構えてみた。
「?そうやって使うのか?」
少女が渡してきたものは、小ぶりの拳銃だった。
「そうそうこうやって使うけど…これは拳銃って言うんだ。武器の1つ。」
「けんじゅう?」
少女は聞きなれない言葉に首を傾げる。
「拳銃はこの中に銃弾………まあ、玉を入れてそれを火薬の爆発を利用して飛ばすやつだよ」
少女はジルの話していることはよく理解できなかったが、とりあえずその名前だけでも覚えておこうと思った。
「拳銃か………使えそう?」
少女はジルに尋ねた。
「いや、中になにか詰まってる。やめといた方がいいな。しかも肝心の弾丸がなかったら使えないしな。バラしてその回収所に持っていった方がまだ使えるかもしれない」
ジルは引き金を引っ張ってみても軽い感覚が手に伝わるのみであるので、中に詰まっているのは弾丸ではないと判断してそう言った。
「それはなんかその……弾丸?ってやつを飛ばすものなのか?玉っていってもそれじゃないとダメなのか?」
「そうさ、しかもその拳銃にもたくさん種類があるからな。それによって使う弾丸も違ったりする」
「へぇ………。」
こんな所で目の前の少女に拳銃について教えたところで何もないのだが。
ジルは少女に拳銃を渡した。しばらく少女は拳銃の至る所を触ってみたり見ていたり、地面に投げつけてみて強度を試したりしていた。どことなく動作が好奇心丸出しの子供っぽく見えた。
少女は自分の年齢は数えてないらしいのでわからないが、ジルがパッと見たところでこの子の年齢はおそらく成人ちょっと手前か、それより少し前くらいだと判断した。
ジルとは少しばかり歳の差があるから、こいつが子供っぽく見えたのかどうかは判断しかねなかった。
少女は結構長いこと拳銃を弄っていた。
ジルのさっきの真似をして引き金を引いてみたりもしている。ジルはゴミの上に座ってそれを見ていた。満足したのかいろいろ試し終えたあとで少女があることを尋ねてきた。
「これはなんのために使ってたんだ?」
少女は地面に落ちた拳銃を手に取った。
それと同時に、不意をつかれたジルの眉が微かに動いた。
その質問にジルは少しの間黙り込んでしまった。
「どうした?」
「何のためか…………えらく難しいことを聞くな…。」
悩んだ顔をしてジルは頭をポリポリとかいた。
「まあ、言うなら身を守るためかなぁ…………。」
「ふぅん………玉を飛ばしてまもれるのか?」
ジルは立ち上がってスタスタと少女の目の前へと歩いた。
そして彼女の手に握られている、傷まみれの拳銃を取った。
「弾はたしかに5センチくらいの細長いやつさ。それ単体じゃなにも出来ないだろうな………けど。」
ジルはそう言って銃口を少女の額にぴたりとくっつけた。
少女の額に固く冷たい感覚が伝わる。
「こいつがあればその弾をとんでもない速さで打ち出すことが出来る。そうしたらその弾丸は恐ろしいものになるのさ……石壁を軽々とぶち抜いちまうくらいにな。」
ジルは拳銃を下ろすと、不意に着ていた上着の左側をはだけさせた。ジルの引き締まった左腕が顕になる。
少女は目をみはった。
ジルのちょうど左肩の少し下あたりに1つ傷跡があった。なにか小さいものが貫通したかのようだ。
ジルはそこを指さした。
「これが生き物に当たるとこうなる……まあ、全部傷が残るってわけじゃないけどすげー痛いし、腹とかだったら最悪死ぬ。」
ジルは笑いながら言うが、少女は笑う気にはならなかった。
少女はもっと別の所を見ていた。
その弾痕にも驚いたがそれ、以上に彼の体に刻まれている傷跡の量に釘付けになった。
腕だけでも至る所に大きな傷から小さなものまで、広く縫い合わされたような傷もあった。
ジルはたしか傭兵を生業としていたと聞いた。傭兵といっても少女にはどんな仕事なのかいまいちわからないし、戦場というものもちっぽけな知識しか詰まってない頭で思い浮かべることすらもできなかった。
だが、彼の傷がその仕事で出来たものならばこんな寂れた土地でゴミの中から金になるようなものを必死で探しているよりは過酷であると少女は己の直感で察した。
「さっき頭に当ててたけどあそこもぶち抜かれたら……運が良かったら生きてられるけど、ほぼ即死って感じだな。」
少女は、ジルの声で現実に引き戻された。
ジルは玉の込められていない壊れた拳銃をこめかみにピタリとあてた。
少女はあの冷たい銃口が自分の額にあてられたときの感覚が急に戻ってきたのを感じだ。それとともに、さっきは感じられなかった腹のそこがきゅうに小さく縮こまるようなものも感じとった。
「人はまた、これを「凶器」、人を傷つけるものとも言ったりもする。要は使い方次第ってわけだ。」
ジルはどこか無邪気そうに、しかしどこか冷たげに言った。
「…………そんなものなのか。」
「まあ、弾さえなければただの堅物さ。投げつけたりすれば多少は武器になるけど、それならバラして売った方がお前にとっては得だろ。」
ジルは拳銃を少女に返した。
しかし、少女は困ったような顔をした。
(バラすと言っても……どうバラせばいいのか……。)
最初は興味深さでその拳銃を見ていたが、今度はどうバラすかを考えるべく少女は拳銃を凝視し始めた。
だいたい物には壊れやすい部分があるはずである。人にも急所というものがあるように、かたちあるものにはそういったものが必ずあるのだ。
いつも大きなゴミなどはそこを利用して細かくバラして使えるものと使えないものに分けている。
しかし、拳銃は今まで見たことがないのでどこをどうしたら何が外れるか、どこが使えてどこがダメなのかは全く検討もつかない。
だいたいこうなったら無理やり壊してバラすの手段をとるが、ジルの拳銃の話を聞いて無理に壊してなにか起こったりしないかと急に不安になってきた。
少女は唸った。そして、またしばらくどこがいじれそうな所を探っていた。
ジルはひとりでその様子をみていた。
まだなにか気になることでもあるのだろうか。随分と長いこと見ている。
気になるならとことん見せておけばいいかと、とりあえず少女は放っておいて自分もなにかないかと、なんとなくガラクタの山を漁り始めた。
近くで見ると、そのゴミの実態がハッキリと見えてきた。
遠くから見ただけだと大きな物だけが目立って見えていたのに、こうしてみると細かい物も結構色んなものが混じっているようだった。といっても、どれがまだ使えそうか、どこが使えそうかという検討はてんでとつかない。
ジルは試しに傍にあったひん曲がった鉄パイプをゴミの山から引っ張りだしてみたのを機会にして鉄パイプを集め始めてみた。使えるかどうか考えるのはとりあえず後にした。
鉄パイプと1口に行っても、まだ真っ直ぐなままのもあればどんなふうにしたらこんなふうに曲がるかという程に曲がってしまったもの、太さも全てバラバラだった。
掴んだ瞬間にボロりと崩れてしまったものまであった。塩水にでも浸かっていたのだろうか、それは心做しかほのかに白いものが膜を張っているような気がした。
気づけばジルの手はサビがついて赤く、黒くなっていた。
金属特有の、動物の血液にもよく似た匂いが鼻を刺した。ジルはこの匂いはすっかり嗅ぎなれてしまっていた。
パンパンと、手をはらいながら振り返ると自分でゴミ山から引っこ抜いた鉄パイプが積み上げられている。
(どうしよっかなぁ、これ………。)
ジルは集めた鉄パイプを見下ろした。
子供が石ころなどを無性に集めるように、なんとなく目立つ鉄パイプを引っ張り出しただけでこの行為の意味などは無に等しかった。
どうせならさらに集めてみようか。
鉄パイプの山のさらに向こうでまだ少女は拳銃とにらめっこをしている。
ジルは不安定なゴミの上を歩いて、鉄パイが突き刺さってないかを探した。ゴミとゴミが重なり合ってできた山は脆く、歩けばぽろぽろとゴミが崩れ流れ落ちていく。不安定であるうえにたまに足場がごそっと抜け落ちてしまうこともあった。
上手いことゴミが重なり合い中が空洞になることがあるようである。それながらもゴミが上手いこと支え合い形を保ち、表面に新たなゴミが積まれることてその穴が見えなくなりこうなる。
なんとなく目を凝らせば中が空っぽであるのは察することはできたので、ジルはそういった箇所を避けながらどんどん登っていった。
この山は見かけによらず案外背丈があるようだ。目線が高くなり少女の姿が少し小さく見える。
彼女はなにか小石を拳銃にガシガシとぶつけているように見えた。解体する方法でも探しているようだった。残念ながらあれくらいでは壊れないだろう。
いくら捨てられたものであれ、科学文明都市の技術は凄まじいものである。その高度な技術です作られたものは脅威の強度を誇る。
少女は思った通り苦戦していた。ジルは登った山のてっぺんでしばし少女の姿を見た後、彼の隣に鉄パイプが突き刺さってるのを見つけた。
本日何本目だろうか。その鉄パイプをジルが引き抜こうとした時。
背後で何かが動く気配がした。
ジルはすぐさま視線をその気配のする方へと向けた。
彼の淡い赤色の目は、科学文明都市で作られたであろうその辺にいくつもの転がっていた箱のひとつがこちらに向かって突進していた。
「!?」
ジルは驚きながらも、それを躱す。
だが、躱した時に不安定なゴミの上でバランスを崩してそまま、山から転がり落ちた。
「傭兵!?」
少女もジルが転がり落ちてきたことにより、何か異常なことが起こったのだと悟った。
ジルは転がった先で受身をとり、瞬時に体勢を立て直す。
ジルのその軽い身のこなしに少女は感嘆した。その感嘆に目を配ることなく、ジルは自分が転がり落ちたゴミ山の方へ視線を写した。
先程突っ込んできたあの箱も山の下まで降りてきている。それは小さく小刻みに揺れて、辺りの小さなゴミもそれと共鳴して浮かび上がり揺れている。
明らかに異常な光景ではあるがジルどころか少女も驚くわけではなかった。
その箱を睨みつけたまま2人は動かない。
「また出たのか。」
少女は悪態を着いた。
言動や素振りからしてこういうことは初めてではないのだろう。
「……『モノツキ』か…。」
ジルはそうぽつりと呟いた。
忘れてはいけないのが、この世界には科学文明都市の他に魔法文明都市があることだ。
そのようなものがあるくらいなので、もちろんこの世界には魔法も蔓延っている。
魔法は人が直接魔力を操ったり、何かにその魔力を媒介させたりしてそれを使うことがてきる。
魔力が流れるのは人だけではない。どこにだってどんなものにだって、大地自体にもそれが流れている。
たとえそれがゴミであったとしてもだ。
物にも魔力が流れるが、その流れる量が多すぎたり、ひどくそ末に扱われたものに魔力が流れると、物体は生き物のように自在に動き出す。
要は魔力の暴走だ。
そして、無差別に動くもの全てに向かって攻撃を仕掛けるようになる。それが「モノツキ」の正体だ。
少女の先程の言葉から、ここは「モノツキ」がよく出るのだろう。ここは粗末に扱われたゴミの宝庫。「モノツキ」の一つや二つ出ていてもおかしくはない。
あの箱はふわりと浮き上がり、小さいゴミを撒き散らしながら再びこちらに向かって突っ込んできた。
「わっ!」
ジルはなんなく躱すが、少女は声を上げてギリギリで躱した。少女はバランスを崩し、その場にペタンと座り込んでしまった。反応自体は悪くないものの、少女の動きは完全に戦闘に慣れていない素人の動きだった。
やはり戦闘を仕事としていれば自然とこういうことは見に染み付くのだろう。
ジルはそう思った。
「モノツキ」は少女の動きがジルよりも鈍いことを悟ったのだろうか、狙いを少女に変更した。
ジルとは反対方向の少女の方に向かって突進していく。少女は何とか立ち上がって避けようとするも、「モノツキ」の動きは驚くほど素早く避け切れそうになかった。
「モノツキ」になったのがまだ小さな缶とかだったら突進されてもちょっと痛いくらいで済むのだが、箱は人1人が抱えて持てるくらいの大きさだ。
ちょっと痛いくらいで済むとは考えづらかった。
しかも流れ込む魔力が多ければ多いほど動きは機敏になる。ジルが知る一般的な「モノツキ」よりもその箱は俊敏であった。
あのスピードであれだけの大きさのものが突っ込んでこれば大怪我どころか打ちどころが悪ければ最悪のことも考えられる。
考える前に体が動いていた。
ジルは胸元から小さな何かを取り出した。
その取り出したものの先端が太陽を反射してキラリと光ったのを少女は見た。
それをジルは空高く放り投げた。
放り投げられたそれは一際大きく輝くと、むくむくと大きくなっていった。
地面に落ちてくる時には、それは立派な一振りの薙刀になっていた。
ジルは地面に突き刺さった薙刀を容赦なく引き抜き、地面を大きく蹴った。土埃を巻き上げてジルは少女の方へと驚くべき速さで走っていった。
ジルはあっという間に突進してきた「モノツキ」に追いつくと、薙刀を大きく薙いた。
バキンとという音と共に、その箱をいとも簡単に寸断した。
少女の目の前で薙刀の刃がぎらりと光りぼろぼろとその箱の破片が降り注ぐ。ゴトンと鈍い音を立てて、箱が地面に転がり落ちた。
「モノツキ」になったものは壊してしまえばその流れ込んでいた魔力が逃げ出して、ただの物体に戻る。
少女は動くことが出来ずしばし固まったまま転がっている残骸を見ていた。
切り口は見事にすっぱりと綺麗で無駄のないものだった。
「大丈夫か?」
ジルに声をかけられてようやく少女は我に返った。ジルは何事もなかったかのように平然としている。ジルは手をこちらに差し出した。
「あ、ありがと…………。」
差し出された手を掴みたちあがって、少女はまだ情報の処理が終わらず混沌としている頭を使ってその言葉を何とか絞り出した。
「まあ、いきなりあんなのが飛び出してきたらそりゃビビるわな。」
ジルはけたけたと笑ったが、少女の顔は引きつったままだった。
「今まであんなに速いやつ見たことなかったから………。」
少女は呟いた。
「へぇ……やっぱここはよく出るのか。まあ、今のはまたまにある桁違いってやつかもな。」
ジルはゴミ山を見回した。
他に「モノツキ」になったものは今のところないようだ。
「………そういや、お前『モノツキ』が出た時はいつもどうしてたんだ?」
今日はジルが対処したが、少女はここでずっと1人だったのだ。
こういうのが出た時は自分で対処するしかないだろう。
「ああ、それなら……。」
少女は上着の1番上まで挙げられていたジッパーを少し下ろした。
少女の白い首元が顕になる。少女の首には黒いチョーカーが巻かれていた。
チョーカーには青く不思議な輝きを放つ宝石がひとつはめ込まれていた。
少女はその宝石に手を触れた。宝石は強く輝き始め、青い光の粒が飛び出す。光の粒は少女の目の前で集まっていき、また、ぱあっと一際大きく輝き弾けた。
少女の手にはあの宝石と同じように青く不思議な光を放つ刃を持つ刀が握られていた。
ジルは大きく目を見開いた。
「お前……それ、『力の刃』じゃねぇか。」
「え?何それ?」
少女は目をぱちくりとさせる。
「力の刃」とは、魔力自体を具現化させて作り出す武器のことだ。
これを使うには魔力を具現化するために必要な魔力を媒介する道具を作らなければならない。
その道具を作るのにも、具現化すること自体も本人の魔力を大量に必要とするので誰もがこれを作れるというわけではない。
ジルの使っている薙刀も自身の魔力を付与させたいるため普通のものより威力はあるが、「力の刃」はそれをはるかに超える圧倒的な威力を誇る。何せ本人の魔力をそのまま物体にぶつけられるようなものだ。
「どこでそれを作った?」
ジルは驚いた顔を崩すことなくたずねた。
「え?……なんか、最初から持ってた……らしい。」
少女は覚束無い記憶を手繰るように答えて、話を続けた。
少女は手元の刀を見た。
「みんな言うには僕は捨てられたんじゃないかって。この辺りの近くに、籠に入れられた僕をみんなが見つけてくれたんだ。その時にはすでに僕の首にはこれが巻かれていたらしい。」
少女はその首のチョーカーに手を触れた。
青い宝石がまたキラリと輝いた。
少女の「みんな」と言う言葉にジルは反応した。
「昔はまだ人はいたのか。」
少女は頷いた。
少女はくるりとジルに背を向けると、どこかを目指して歩き始めた。
「おいで。」
少女はジルの方を少しだけ見た。
表情は沈みかけた夕日の逆光でよく見えない。
「みんなにあわせてあげるよ。」
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