31Dead『想いの力』

望は呆気にとられていた。




(なぜだ!! どうして俺に噛みつかない! あいつより前にいたぞ! 俺は!!)




と自分が前にいるにもかかわらず自分より後ろにいたヤルが噛まれていることに不満を感じていた。


俊敏性犬はやっと立ち上がり




「グウウウウ」




と唸っていた。


望がどうして噛まれなかったのか。


それは来いとしか言わなかったからだ


言うことを聞いてはいるが自分を噛めとは言っていない為、ゾンビたちは言うことを聞く相手に手を出さず指示外であるヤルに噛みついたのであった。


その為望はまだ気づいていない為




「くううう!! どうしてだ! どうしてだああああ!」




とただただ悩んでいた。


しかしそれも時間の問題だ。


望も気づかずとも俺に噛みつけという言葉を発する可能性がある。


そうなってしまえばもう望の思い通りのままであった。


しかし、それを望まない者がいた。




「グウウウグウウウ」




と唸りながら俊敏性犬は望を見る。


望はゾンビに気を取られており今だ俊敏性犬が立ち上がったことに気づいてはいな。


俊敏性犬はゾンビを睨みつけた。


しかし、ゾンビたちも未だヤルを食べていた。




「フアアアアバアアアアアアア!!」




と悲鳴の声はどんどんと小さくなって言った。




「あ……がああ……グバアああ……」




ヤルの生命も尽きかけているのだろう。


もう少しで望へと意識を向けるのだろう。


俊敏性犬は望の服を口で掴み引っ張った。




「何? お前? 邪魔」




と言うだけで動こうとしなかった。


俊敏性犬は急いで




「グウウウ!」




と唸るが




「せえ!!」




と言ってそっぽを向かれてしまった。


そして




「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」




と一人一人とゾンビたちは顔を上げる。


望は




「!! こっ、これで俺を噛んでくれるか!!!」


「!!」




望はついに命令をした。


自分を噛めと。


俊敏性犬は望の生命の危機が訪れることに自分の意味が無くなってしまうことを本能的に恐れはじめた。


ただ望が踏んでしまったスイッチで望の命を守っていただけのゾンビ犬が望と行動する度にどんどんと俊敏性犬自身の本能的な部分へと刺激していた。


その為か俊敏性犬は死んだ犬にもかかわらずどんどんと行き帰り始めていた。


そして、その想いはゾンビ犬の可能性を飛躍的に上げた。




「グエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「うわっ!! うるさ!! なんなんだ! お前は!!」




と望はいきなりの事に驚いた。


だが俊敏性犬は今の一瞬で自分の望の命を守るという電波信号を他のゾンビたちに送りつけたのであった。


普通に考えれば不可能と思われる偉業を俊敏性犬は守るという想いだけで奇跡を起こしたのであった。


そして、ゾンビたちは望の方を見たものの送られた電波によってゾンビたちは望を襲うことは無くなった。


望は




「!! 俺の方を見ている! これは!! 噛んでくれるのか!」




と期待の目をしてゾンビたちを見た。


しかし




「……? うん?」




全く微動だにしなかった。


望は




「もしかしてボタンを押した者の言うことを聞くとかという訳分かんねえプログラムでもされてるんだろうか?」




と思い望は




「さあ!! 今こそ! 俺を噛んでゾンビにして見せてよおおおおおおおおお!!」




と大声で命令をした。


しかし、ゾンビたちは望の方を見るだけで動くことは無かった。


望は




「……違うのか?」




と思い




「前へ進め!!」




と言った。


するとその言葉と同時にゾンビたちは前進する。


望は




「何だよ!! ちゃんと聞くじゃねえか! じゃ! 俺を噛もうか!」




と言ってゾンビの肩を叩いて言った。


しかし、その命令だけはゾンビたちは聞こうとしなかった。


望は




「おいおいおいおい! 噛んでくれるんだろ? 寂しいな! ねえ! 聞いてる! ねえってば!!」




と言って震えながら涙目になった。


望は




「頼むよ! 噛み付いてくれ! 俺をこの地獄から逃げさせてくれよ!! 糞おおおお!!」




と言ってゾンビたちを睨みつける。


しかし、何度言ってもゾンビたちはその命令に関しては動こうとしなかった。


望は




「そっそんなああ……まさか……ボタンを押した者は決して噛まないのか……」




と言ってショックを受けていた。


そして望は涙を流しながら膝をついて




「噛んで……ください……」




と言った。


それでもゾンビたちは望を噛もうとしなかった。


そして、俊敏性犬は望の望みを叶えはしなかったが望の命を守ることが出来た。




「クウウウウン」




俊敏性犬は死んでいるにもかかわらずどこか満足そうな感じになった。




しかし、望むな何かいきなり元気になったのか




「そうだ!! さっきの奴!!!」




と言って立ち上がった。


俊敏性犬はキョトンとした。


すると望は先ほど噛まれたヤルの場所へと向かった。




「確かここにさっきの少年が! もしかしたら噛んでくれるかも!」




と思って望はヤルを探した。


俊敏性犬は




「グワン!!」




と鳴いて焦って望に近づいたが




「……あれ? どこにもいない?」




と望は周りを見渡していた。


すると




ポリポリポリ




と音がした。


その方向を望と俊敏性犬が見ると




「ムシャムシャ」




とゾンビが骨まで綺麗に食べていた。




「……お前らは御残しが許されてないんかい!」




望は盛大にツッコんだ。

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