第32話:王女様と竜②

 「いろいろお声かけいただいたんですが、本人がどうしても国の騎士団がいいと譲らなくて。スカウトの皆さん、軒並み落ち込んでましたっけ」


 「へえ、熱心だなぁ。けっこう前から目標だったのか?」


 「ええ。何でも十年前に助けていただいた騎士の方が、こちらにお勤めだそうでして。ついに憧れの先輩とご一緒出来るっていうので出発前日なんて一睡も」


 「わあああっプロテア~!!」


 ライトに答えるにこやかな樹竜の言葉を、耳まで真っ赤になった相方が無理やり遮った。そんなやり取りを眺めて、そっか~眠れないくらい嬉しかったんだ~とほのぼのするリーゼだ。いいな、そんな素敵な動機があって。


 「じゃあ探したら案外すぐに会えるかも。みんな最初に入る隊は決まってるけど、その後は申請だして好きなとこに行けたりするから、所属がわかってればすぐ一緒に働けるよ」


 「えっホントに!? ……あ、でも名前聞いてなくて。おれ小さかったから、顔もうろ覚えだし」


 「あー、そっかあ」


 申し訳なさそうな言葉に残念、と肩を落とす。せっかく手伝えると思ったのだが、なかなかうまくいかないものだ。


 しょんぼりしているリーゼに、シモンはひとつ瞬きをするとにっこり笑った。助けてもらっただけで十分すぎるほどなのに、本当に優しい子なんだなぁと微笑ましくなる。


 「でも、言ってたことはよく覚えてます。生まれや育ちを変えるのは難しいけど、他のことは努力次第でいくらでも変えていけるんだよ、って教えてもらいました」


 小さい頃はからだが弱くほっそりしていて、女の子みたいだとからかわれては泣いていたシモンは、この言葉に大いに勇気付けられた。徐々に体力をつけて剣の修行に没頭し、気付けば国内外の猛者が集う大会で優勝を飾るまでになっていたのだ。


 「あのひとに出会ってなかったら、今こうやって王都まで来ることも出来なかっただろうなって。それだけでもすごく嬉しいんです」


 「っわかる!! 私もライトに毎日助けてもらってるからすっごくわかる……!!」


 「リーゼだって頑張ってるよ――て、あれ。隊長さん?」


 「……ん!? いや、何でもない。気にしないでくれ」


 リーゼを誉めつつふと振り返った先で、何故か組んだ両手の上に額をつけるような格好で項垂れている隊長がいたりした。ライトの声で我に返ったようで、ばっと顔をあげて話の続きに入る。


 「まあとにかく、今日はもう遅い。さすがにさっきの今で出歩くのはまずかろう、隊舎の空き部屋でよければ使ってくれ。リーゼは――」


 ばたーん!


 突如上がった音が、言いかけたセリフを遮った。全員が勢い良く振り向けば、全開になったドアから入ってくる人影が。


 「えっ、ロゼッタ!?」


 「はあいリーゼ、ライトもさっきぶり。それはさておいて、話はそこの廊下で聞かせてもらったわ隊長さん!」


 背後にお付きの皆さんを引き連れて、にっこり笑顔で手を振ったのは、夕方別れたばかりの友人だった。


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