第27話:竜滅の刃④
そこまで考えてはっとした。こいつが本当に、最近の事件にかかわっているのだとしたら。
「誰かケガしてるな。血の匂いがする」
ライトのつぶやきが嫌な予感を裏付けた。ドラゴンは変身しても、五感の鋭さは本性の時と変わらないのだ。しばし気配を探ってから、硬かった表情をほんの少しゆるめて付け加える。
「――大丈夫、まだ生きてるよ。すぐ手当すれば平気だ」
「ホント!? よかった」
「あいつが出てきた路地に入って、わりとすぐのところにいると思う。……それでリーゼ、頼みがあるんだけど」
「うん、何?」
「何だっけ、トロール? あいつはおれが引き受けとくから、怪我人を
何でもないような口調での提案に、一瞬沈黙があった。我に返りざまリーゼが叫ぶ。
「ダメ! 何で今の見ててそういうセリフが出てくるの!?」
「え、だってリーゼ、簡単な治癒魔法なら使えるって言ってたから。それに急いだ方がいいだろ」
「そういう問題じゃなくて! 大体、怪我人ていうならライトだってそうでしょっ」
「もう大体治ったから大丈夫。それに俺、結構強い気がするし」
「気がするだけっ!?」
妙に既視感を覚えるやりとりのさなか、どんっと重い衝撃が足下を揺さぶった。はっとして下を見れば、足場にしているテントの柱をつかんでへし折ろうとしている氷獄鬼が。
倒壊の寸前、もう一度跳躍して路地の入り口に降り立ったライトは、リーゼを放すと何か地面から拾い上げた。
市場の荷をまとめていたとおぼしきロープだ。やはり転がっていた金槌に結びつけて重りにすると、頭上で勢いよく振り回して投げ放つ。それはまっすぐ宙を飛び、ちょうどテントを引きずり倒した氷獄鬼の腕に巻き付いて、
ばちばちばちばちッ!!
ロープを伝ってきた雷撃が炸裂し、地を揺らがすような雄叫びが上がる。野太い絶叫をバックに、肩越しに振り向いたライトはほけっと笑ってみせた。
「な。結構やれば出来るだろ?」
「……うん」
頭が覚えていなくても、本能で攻撃のやり方がわかるらしい。さすが竜族最強の二つ名は伊達じゃない。要らない心配だったかも、と少々気まずい思いをするリーゼを、ロープを持ったままのライトがやんわり促した。
「ここは何とかするから、怪我したひとを頼むな。あんまり市場荒らすといけないだろうし」
「うん、わかった。――無理しないでね」
我ながら心配性だとは思うが、やはり気になって付け加えた。すでに背を向けていた青年は、肩越しに振り返って『ありがと』と笑ってみせてから、早くも体勢を立て直しているモンスターに改めて対峙する。
よし。自分は自分で、出来ることをしなくては。
早く
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