第5話:竜、北の空より来たる⑤
最近では隊長殿の娘さんが竜騎士を志望している、という話も大分広まっていて、パートナー候補に自分の親戚や知人を斡旋してくれるひとが増えている。それはそれでありがたいお話ではある、のだが、
「そーいう人たちが家に来ると、何でか父様の機嫌が悪くって……なんなんだろう、あれ」
「ああ~、ね。うん、気にしなくていいと思うよ」
まさか年頃の娘の交友関係を心配しているとは露ほども思わず、素で首をかしげる友人に姫君が楽しげに笑いをこぼした。そういえばさ、と身を乗り出して話題を変える。
「リーゼは具体的にどんなひとがいいの? ちゃんと聞いたことなかったけど」
「えっ? うーん、そうだね」
そういえば話したことがなかったような気も。改めて問われて気がつき、素朴な疑問に答えるべく考えることしばし。
「…………
そう返すと、なぜかロゼッタの目がじとりと据わった。その表情そのものの、呆れた声が感想を告げてよこす。
「ヘタしたら一生棒に振るよ、それ。大体リーゼ、逃げるのはよくないって」
「わ、わかってるわよ! 言ってみただけだってば」
今彼女が口にした天竜は、竜族の中でも五指に数えられる強大な霊力を持つ。ウロコはなく、代わりに真珠色のふわふわした長毛をそなえていて、エルフのように長い耳をした可愛らしいドラゴンである。一見して
ただこの一族、定住地を持たず常に移動し続けるという生活スタイルを持ち、なおかつ絶対数が全ドラゴン中ダントツで少ない。あまりの希少さゆえに、『一生に一度でも会えたら幸せになれる』なんてジンクスまで生まれたほどだ。真偽の程はさておいて、タイムリミットまで一ヶ月を切ったひとが狙うにはちょっと敷居が高すぎるパートナーといえよう。
「でもいいなぁ、自分で決められるのって。わたしなんて決まった中からしか選べないもん、生まれたときから日付まで確定してるし」
「……そっか、今年なんだっけ。
思い当たってつぶやけば、ぶつくさ言っていた相手はこっくり頷いた。
このロルベーアでは古の伝説にのっとって、王位を継ぐものは十六の年、各地から集められた竜族より、ひとりだけパートナーを選ぶことになっているのだ。それが撰竜の儀と呼ばれるもので、たいていは春の立志式と同じ日、騎士の任命に先がけて行われる。
このたびは先代の王太子――つまり現国王であるロゼッタの父が、かれこれ二十年ほど前にやって以来となる、久々の式典だ。騎士団の若い面々も、華やかな式に出席できるとあって盛り上がっていた。主役のロゼッタが姫君らしい、清楚で可憐な容姿なのも大きな要因だろう。騎士たるもの、どうせ忠誠を誓うならば見目麗しい淑女のほうがうれしいというものだ。
しかし当の王女殿下といえば、テーブルにほおづえをついて浮かない顔だった。
「どーせ一生いっしょにいるんだったら、お膳立てしてもらって選ぶんじゃなくて、もっと運命的な出会いがしたいじゃない。うちのご先祖様みたいにさ」
「うん、わかるわかる。やっぱり出会いって大切だよ」
「だよね! リーゼなら分かってくれると信じてたっ」
心底嫌そうな物言いに頷くリーゼ。きっぱりと肯定してくれた友人に我が意を得たりとばかり、姫君が身を乗り出して満面の笑顔になる。
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